本sngk

□罰ゲー…?
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「おいやどり、てめぇ、なんだ、そりゃあ」

「あ、えっと、すみません…」


私の姿を見るなり、挨拶も何もかもすっ飛ばして兵長は怪訝な顔でそう言ってきた。いくら顔がこわくてゴロツキだった兵長でも無意味に人につっかかったりはしないから、理由があるんだろう。そしてその理由の心当たりが私にはあって、やましさからつい謝ってしまった。
だけれどどうやら、私の謝罪の言葉は兵長の神経を逆撫でしただけのようで、眉間に寄せていた皺をますます深くした。


「おい、俺はなんだそれは、って聞いたんだ。謝れとは言ってねぇ」

「あ、す、みません…」


謝るなと言われたけれどこの二回目の謝罪は謝ったことへの謝罪だから大目に見てくれるだろう。でもそれはただの希望的観測で、兵長は黙ったまま目を僅かに細めた。
あ、怒ってるぞ…?


「なんだその髪型は」


私が謝るばかりで兵長の聞きたいことに答えないからか、兵長から話を切り出してきた。
そう。髪型。今私は、同期との賭け事の罰ゲームのせいで、三つ編みおさげなのだ。耳の後ろから垂れ下がる、三つ編みおさげ。それもかなり手先の器用な同期が、「きゃーっ!三つ編みなんて久しぶりー!!」と無駄に気合を入れてしまったせいで、それはそれはきれいで見事な三つ編み。その状態で今日は一日過ごす。それが罰ゲーム。兵団入りたてならまだしも、もう何年目かになる私が、そんな恰好、恥ずかしすぎる。(さっきだってすれ違ったアルミンがすーっと視線を逸らした。最悪)

兵長は先程から、眉間の皺と細められた目で威厳の(威圧感の?)増した表情で私を静かに見つめてきている。
やばいやばい、これ、罰ゲームなんですとか言っちゃったら、「遊んでんじゃねぇぞ!」とかってキレられるんじゃないか。とは言え趣味ですとか絶対言いたくないし。


「え…っと」


なんて答えよう。兵長に尋ねられてから1秒も経っていないはずだけど、この少しの時間が私にはすごく気まずくて長く感じられた。頭の中は高速で言い訳を考えている。こわくて兵長が直視できずにいる私は、今きっとものすごく目が泳いでいることだろう。
ようやく『え…っと』とは言ったけど、続ける言葉が見つからない。なんて答えれば怒られもせず妙な誤解もされず切り抜けられるだろうか。えっと、えっと。
考えながら兵長をこわごわ窺い見る。兵長はさっきからずっと表情を変えずに私を見ていたようだ。
っ!!目が合った…!


「ひっすみませ」

「いいじゃねぇか」


恐怖から、私の口からは三度目の謝罪の言葉が出た。けど。それは思いもよらない兵長の発言に遮られた。
え?いいじゃねぇかって言った?


「ん?」

「明日からもそれにしろよ」

「ん?」


え?明日からもそれにしろよって言った?
言うだけ言って兵長は、私の横を通り過ぎてさっさと歩いて行ってしまった。え、ちょっと待ってもっかい言ってください。マジで?マジで?
おさげを振り乱しつつ兵長の行く先を振り返ってみたけど、とっくに角を曲がったようだ。
……。え…っと。
怒られもせず、妙な誤解も受けなかった…けれど。明日からもそれにしろよ、に従うべきか否か、という新たな問題が私にのしかかってきた。
あぁ、どうか、聞き間違いであってほしい。








‐罰ゲー…?‐
(むしろ明日からが罰ゲーム)

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