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□狂ってしまった彼の笑顔は
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綱手様に告げられた扉の前に立った。

テンゾウはこの中にいるらしい。


鉄製の扉からは、中は窺えなかった。

ただカギ付きの子窓があり、食事のやり取りをしているのだろう。


今のところは、生かしておく方針のようだ。



廊下に立っていた暗部が扉を開ける。

中に入るよう促され、私の両足が完全に部屋に入ってしまうと後ろからカギを閉める音が聴こえた。


テンゾウは、壁によりかかり足を投げ出したまま、床のどこか一点を見つめている。

大きな猫目には何も映していないようだけど。





「…テン、ゾウ?」





おそるおそる声をかければ、ゆっくりと顔をこちらに向けた。


そして――





「きゃっ!!」

「はは、あははは」





今までだらりとしていた様なんて嘘のように素早く動き、私をおさえつける。





「っ!」





みし、と腕に食い込む指が痛い。





「テンゾウっ…!」





私、やどり!

恋人だったのに!!


そう叫んだつもりなのに、実際は口が動くだけ。



それでも悲鳴は上げた。

暗部はかけつけては、来なかった。





「やだ、やめて…っ」





抵抗しようにも、力加減すら忘れてしまったテンゾウには無理なようだった。


大きな眼に私が映り込んでいるけど、きっと私が視えている、ということには気づいていない。


ここにいる目の前のテンゾウは、もう私の知っている、優しい彼ではなくなっているのだと。

そう思った。





「くく…」





喉の奥で笑う彼。



未だ暗部はこない。

その時気づいた。


あぁ私、生贄に、されたんだ。

頭のオカシクなった私の彼氏の、生贄。



ひどいですね、綱手様。
















−狂ってしまった彼の笑顔は−
(それだけはなぜか)
(以前と変わりなかった)
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