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□狂ってしまった彼の笑顔は
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「やどり。…まぁ、座れ」
私に最初にテンゾウのことを連絡してくれて、それから火影室に来いと言ったのは綱手様だった。
何を告げられるのだろう、と落ちつかない心と、座れということは長くなる話なのだろうな、と落ちついて考察する心と。
でも思うことは一つ。
テンゾウは今、どうなっているのか。
これから、どうなっていくのか。
「…早く事実が知りたい、と言った顔だな」
今話そうってのに、と呆れ顔をみせる綱手様に頭を下げようとして、機先を制される。
「まぁいい。やどり、心して聞くんだ。…恋人であるお前には、少々辛すぎるかも知れないが」
あくまで淡々と言われ、なんだかそれは現実味がないように思えた。
「全て現実だからな」
それくらいは付け加えたかもしれない。
そこで、小さく「はい」と返事をした私に、ゆっくりと息を吸ってから言った。
「…強姦罪、なんだ」
あぁ、キキマチガイだったら良いのに。
なんですか?と聞き返すのもダルくなる言葉。
すっかり、頭は働かなくなる。
素肌に当たる空気が、急に冷たくなったような…そんな心地すらした。
ようやく発せた音は、
「え」
それだけ。
「病院を抜け出して、ちょうどその日の夜だ。一人で歩いていた女性を無理やり…。ケガをさせるようなことはしなかったらしいが、心に傷を負わせた」
女性を、無理矢理。
テンゾウが?
「だが、被害は彼女だけではなくてな。昨日暗部が捕獲するまでに、何人かが同じように…やどり、顔色が」
大丈夫か、と問うてくれる綱手様に頷いて返す。
今口を開くと、吐き出してしまいそうだ。
嫌悪?
不信?
絶望?
或いは、嫉妬?
未だ綱手様の言葉を受けきれない私に、シズネさんがこう告げる。
泣いてしまいそうだったから、少しだけ俯いて顔を隠した。
「今はここの地下にいます。…実は、忍としての、いや、…人として、普通に生活できないような…。…彼は――テンゾウさんはどうやら、敵に薬物を盛られてしまったみたいで」
頷きもしないで、眼を見開いたまま一点を見つめるだけの私に尚も続けた。
「解毒薬を作ろうとしても、近づく訳にもいかなくて」
そこまで聞いて、再び顔を上げて綱手様を見る。
「…私に、囮になれと」
「囮とは…。相変わらずなんとも意地悪な言葉の使い方だ」
「でも、その通りでしょう」
「…あぁ。簡単に言ってしまったが、すまない。やどりの言う通りだ」
つまり、彼女が言うには。
私を呼んだのは恋人だから、ということで間違いはない。
が、二人の再開…とか、最後の別れを…とか、そんなことが理由ではなく。
もしかしたら。
私を見ることで、私と話をすることで、テンゾウの正常な意識が戻ってくるのではないか、と。
戻ってこないまでも、私といる間だけでも以前のテンゾウになるのだったら、家にいるだけで住むと。
「…できない場合は?」
できない場合とは、私を見ても他の女性たちと同じように無理矢理襲おうとしたり…要は薬に影響され続けているテンゾウだったら、という場合だ。
綱手様は、聞かれたくなかった、という顔をしてから口を開いた。
「…あいつは里の持ち物であり、秘密を持ちすぎている。そんな奴がもし他国などで捕獲されてしまった場合…わかるな」
「…」
テンゾウは処分される。
そうならないためには、私が今からテンゾウに会って、一時でも以前に戻ってもらわなければいけない。
…いや、そもそも、私が里に還ってきてからのテンゾウを見たのは一度だけなのだから、現在本当にオカシイかどうかは知らないのだけれど。
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