本sngk
□場違い筋違い勘違い
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「食事会?」
言われた言葉をそのまま繰り返す私に、ああ、ぜひ来てくれないか、とにこやかに言ったのは団長だった。
「あの、お誘いはうれしいですけど、どうして私が」
上司からの飲み会の類いの誘いに対して、こんなことを言うのは失礼かもしれない。
だけど、今回この私の立場での誘いでは、至極当然な反応だと思う。
「役職のある方たちだけの飲み会なのでは」
そう。なぜだか私を探していたらしい団長は、私の姿を見つけるなり
『あぁ、いたいた、やどり、今晩時間はあるかい?日頃の働きを労う食事会をしようと思っててね。来るのは私、ミケやハンジ、それとリヴァイだ』
そこまで一息に一方的に言ってきた。
あれあれ、面子が、偉い人たちばっかりなんだけど。私はただの一兵士なんだけど。
なぜ?と尋ねた私に、団長が返してきたのは追撃だった。
「うん、確かに今回の食事会は上の者だけでということなんだが。リヴァイがどうしても、やどりを呼ぶように言っていてね」
「え」
「君もリヴァイと仲が良いようだし、どうだろう?リヴァイも君のことを買っているようだから」
「…」
なにその話。
兵長が私を買っているだと?直々にお呼びだと?
何度も言うけど私は一兵士。兵長としゃべったことは数えるほどしかない。それもなぜか一方的に兵長が話しかけてくるのみで、そんな評価されるような仕事の話なんてしたことがない。
「あの」
他の人と間違えてない?
そう思って団長に声をかけると、団長は私の遥か後ろの方へ視線を向けているようだった。
「団長」
「ん?あぁ、すまない、ちょうどリヴァイが来たようだから、君たちで話してくれないか」
「え?」
団長は早口でそう言うと、良い笑顔を向けてさっさと歩いて行ってしまった。えぇ…?
正直私も、団長のようにさっさとこの場を離れたい。だけど「二人で話してくれ」と言われて無視もできない。
どうか団長の見た兵長が見間違いでありますように。祈りながら振り返ると、すぐそこに兵長がいた。
「あっ、お、つかれさまです」
確か団長は遥か遠くを見ていたはずなのに。この短時間でほぼ目の前にいられるような感じではなかったのに。こわい。
「あぁ」
「…」
「…」
「…」
なんてことだ。しゃべらないならどこかに行ってほしい。その鋭い目で見ないでください。
どうしよう、と思ってると、兵長が口を開いた。
「お前、来いよ、今夜」
触れてほしいような、触れられたくないような話題だ。
行きたいはずがないし、どんな顔で行けばいいのやら。
「今夜…の、食事会ですか?」
「他になにがある」
「いえ、上の方たちだけだと思ってたので、なぜ私に声がかけられたのかが不思議で」
「…俺がエルヴィンに頼んだんだ」
「それはさっき団長から聞きましたけど…」
リヴァイ兵長に呼ばれたから来ました〜!なんてできる訳がない。
ここは遠慮という形をとりつつ断固として断るべきだ。
「えっと、お邪魔になるかもしれません」
「かまわねぇ。俺が呼んでんだ」
それが嫌なんだってば。
「…上の方たちだけの会話に水を差すなんてできませんし」
「そんな心配ねぇよ、どうせあいつらはなにかにかこつけて酒を飲みたいだけだ」
酔っぱらった上官たちの相手ほどめんどくさいものはないよね?
「何より、あの、ほんとに、私がいることを不思議がられるだろうし、き、気まずい…かな…みたいな…」
「俺が呼んでんだ。堂々としてりゃいいだろ」
さっきからのその、「俺が呼んでるからOK」の自信が何より不思議です。飲み会での兵長の権力半端ない。
だけどもここで引き下がってたまるか。
「そもそも」
こうなったらここまで言ってしまおう。私が改めて言葉を切り出すと、兵長はいい加減うんざり、みたいな顔をした。
うんざりしたいのは私の方だ。
「兵長とお話ししたこと、少ししかないじゃないですか」
誰が大して会話もなかった兵長に誘われてご飯なんて行かなきゃならないんだ。
少し強めに言葉を発すると、兵長は少しだけ驚いた顔をした。
「…やどり?てめぇ…」
心底ショック、なのか驚いた、なのか信じられない、なのかはわからないけれど、見開かれた目と震えてる声から、とにかく衝撃的だということは伝わってくる。
「はい」
どうでもいいからさっさと解放してほしい。ここでこうしてる時間ももったいないし、絶対食事会には行きたくない。
そして兵長のこのリアクションの意味もわからない。
すべてにいらいらして、なげやりに返事をした。
ら。
ずいと迫ってきたのは兵長の顔で、どうやら距離を詰められたようだ。
そして口を開いた目の前の顔が言うことは。
「てめぇは、今までのことを、すべて忘れたってのか」
「…え…?」
まったく私に心当たりのないことだった。今までのこと?なにかありました?
大真面目なトーンで言われても、本当になんのことだかわからないから、え?としか言いようがない。
ポカンとしてる私に兵長はやれやれとかぶりを振ってから、いいか、と前置きをした。その、「今までのこと」の事例をあげるらしい。
眉間に皺が寄っているものの嬉しそうに語りだした。
すれ違うときは声を必ずかけるようにしていたこと(確かに私にだけ一言多く話しかけてきてた)、
そのすれ違う回数を増やすために暇なときはうろうろしてたこと(マジで…?)、
訓練のときは私のことを特に気にかけて面倒を見ていたこと(やたら注意されるから落ちこぼれって同期にからかわれた)、
夕食についてきた幹部だけのデザートを私に差し出したこと(正直断りたかったし周りの目が痛かった)、
夜遅くに私が仕事を終えるような日は見守っていたこと(ストーカーでは…?)
「これでも忘れたってのか」
一通り言い終わり兵長は、ほら思いだしただろ、って顔をしている。けど。
「…そんなの」
「あ?」
「覚えてる訳ないじゃないですか!!」
「!?」
「ほぼつきまといだし!そんな人に誘われて食事なんて行けません!」
「っおい!」
「おつかれさまでした!」
兵長の表情と、今まで私にしてきた行い(奇行、または犯罪と呼ぶ)の数々。それに一気に、腹が立ったのか呆れたのか、とにかく感情が爆発した私は、そこまで言い放ち背を向けた。
兵長が私をとめる声が聞こえるけど気のせいだ。
そしてその兵長をとめる団長の声も聞こえるけど気のせいだ。「次にチャンスがあるさ」なんて声、気のせいだと思いたい。
‐場違い筋違い勘違い‐
→お礼