本sdr2

□ハッピー・ミュージック・アワー
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くだらないとは思ったが、たまには山の瘴気を肌で感じるのもいいだろう、と学校行事に参加した。
山登りという日程になっている今日は、途中で左右田が音を上げたため一時休息をとることとなった。大地に身を預けるのも束の間、再びすぐに頂上を目指すと、意外にもすぐにたどり着くことができた。
これくらい、魔界を統べる闘いを勝ち抜いた俺様には造作もないことだ。見回した頂上からの風景は穏やかなもので、人間がいかに平和ボケしているかが窺える。しかし、その平和を打ち消すような叫び声が次の瞬間聞こえた。


「あっれぇ!!やどりちゃんがいないっす!」

「え?…あれ?ほんとだ!」


叫んだのは澪田だった。続いてその発言の内容を確認した小泉が声を上げる。
雲月が?俺様も辺りを見るが、確かに雲月の姿はなかった。


「まさかあいつ、はぐれたんじゃねーよな」


雑種がそう言うが、ここまで一本道だったはずだ。まさかそんなはずは、と思うのは俺様だけではなく、少し遅れているのではと待ってみることにした。
しかし。
10分経っても、20分経っても、一向に奴が現れる気配はなかった。


「無…いくらなんでも遅すぎやしないかのう…」

「チッ、こりゃほんとに迷ってそうだな」

「私が探しに行こう」


徐々に不安の色が見え始め、話をした結果、手分けをして探すことにした。


「僕は一足先に合宿場へ行ってごはんを作って待ってるよ、おなかを空かせて帰って来るかもしれないしね」

「えーと、唯吹はここで真昼ちゃんと残っとくっす。探しに行っても迷子になっちゃうし、もしやどりちゃんの声が聞こえたときは見つけられるかもしれないっすから!」

「じゃーあたしも小泉おねぇといるー!」

「ふ、ふゆぅ…それなら私は花村さんと合宿場に行ってます…けがをしていたときは手当をしないと…」

「私も、合宿場に行くよ…。もしかしたら、連絡しなきゃいけないところがあるかもしれないし」

「ぼ、僕もあんまり体力ないし、合宿場に来た人に雲月さんを見かけてないか、似顔絵を描いて見せようと思う」

「俺は一度下まで降りてみる、行くぞ、ペコ」

「じゃあ俺たちはこの山の半分だ!行くぞおっさん!」

「応ッ!北側はワシらに任せるんじゃ!」

「じゃあ南側はボクたちで探そうよ、左右田クン」

「えっ2人かよ…!ソニアさん!一緒に行きましょう!」

「えぇ、わかりましたわ。雲月さんを探すためなら、合点承知の助ですわ!」

「ふうん、合宿場で待つのが花村クン、御手洗クン、七海サン、罪木サン…。このまま頂上に残るのが澪田サン、小泉サン、西園寺サン…やだなぁ怖い顔しないでよ。今来た道を戻るのが九頭竜クン、辺古山サン。山の北側は終里サン、弐大クン。反対の南側は左右田クン、ソニアサン、ボク。…田中クンはどうするの?」

「俺様は…」


正直、誰がどこを探す、というのは頭に入っていなかった。
雲月がいない。ただそれだけが頭の中で繰り返されていた。ただ遅れているだけではない。道に迷ったとしても、見知らぬ人間に声をかければいいだけではないか。もしかしたら、合宿場の場所だけはわかっていて、先に帰りついているのかもしれない。
心臓がざわめく。この俺様が、ただの人間である雲月のことを案じているだと?
自分の気持ちに混乱しながらも、今は一刻も早く雲月を見つけるべきだ。そう思っていた。


「!貸せッ!」

「あっ、おい!田中!!」


気がついたときには、左右田の携帯電話を奪って走っていた。
雲月はよく左右田と言霊のやり取りをしていた。あのときの受信を知らせる音であれば俺様はわかる…!連絡をとっていた左右田自身はわからないかもしれないが、俺様は今まで何度か耳にしているのだ。
きっと、誰よりも。雲月と静かな時間を共有していたのは、俺様のはずだ。
後ろから引き止める声がするが、そんなことにはかまっていられない。雲月。どこにいる?
山の中に入りながら、俺様はその音を頼りにするべく、雲月へ連絡をするのだった。








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