本sdr2
□ハッピー・ミュージック・アワー
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超高校級の、メカニック。料理人。写真家。日本舞踊家。剣道家。などなど。彼らは既にその職業に就いている人たちでさえ凌駕する実力を持っている。そして、それはそのまま将来の仕事にできる肩書だ。
そうでなくても、王女とか極道とか御曹司とかは家業を継ぐんだろうし(極道の方は嫌がってるみたいだけど)、軽音楽部とか飼育委員とか保健委員とか体操部とか学校特有の呼び名でも、技術自体は十分生かしていけるものだろう。
マネージャーはそのままトレーナーって道があるだろうし、ゲーマーもゲームのテストプレイの仕事とかプロゲーマーとかも選べる。
幸運…はちょっとわからないけれど、生きていくのに苦労はしないのかもしれない。
さて、問題は私だ。
私は正直、今でも希望ヶ峰学園に声をかけられた理由がわからない。それでも入学を決めたのは、私の才能?がいつの日か誰かの役に立つことがあるのかもしれないと思ってのことだった。
‐ハッピー・ミュージック・アワー‐
入学式のあと、戸惑いながらも自己紹介をした時間は、とても苦痛だった。
だって。
「雲月やどりです。えーと、超高校級の…ジュークボックスです」
「…」
「…」
「ごめん、もう一回」
と、ほとんどがこの反応だったのだ。(軽音楽部の子だけは食いついてくれた)
内心悲しく思いながらも、そりゃそうだ、とも思う。
希望ヶ峰からスカウトが来たときの私の反応がこれだったのだ。無論両親もだった。
そんなわけのわからないものを名乗って行っていいのか。もっと職業らしきものを名乗るのではないか。っていうか物?機械?無機物?
私ジュークボックスなんですよ、曲名を言ってもらえればだいたいは歌えますよ、と紹介してもへぇ、なんだこいつ、ってなるだけなんじゃないか。ジュークボックスということは一回につき100円くらいでももらった方がいいんだろうか。将来そうやって生計を立てるべきなのか。
でも、超高校級の彼らは最初こそ私の才能?にえぇ…と面食らっていたものの、しばらくすれば慣れてしまった。特にお昼ご飯を食べる女の子たちとは、それなりに皆仲良くなれているようだ。
「ほんっと雲月おねぇの才能意味わかんな〜い」
すっかり懐かれたのかばかにされているのか、グミを食べる日寄子ちゃんに突然そう言われてしまった。
「うん、私もそう思ってるよ…」
「もう、やどりちゃんそんなことないよ、えっと…うまく言えないけど」
「わわわわたしも、雲月さんの才能はすごいって思いますぅ…」
「そうっすよ!唯吹、やどりちゃんの歌をBGMにギター弾いちゃうっすよ!」
「あ、歌がBGMなんだ…」
すかさずその場にいた女の子たちがフォローしてくれるけど、日寄子ちゃんの言う通り意味わかんないのは他ならない自分である。
「みんなの才能に比べたら、私の才能なんて誰の役にも立たないだろうし、ほんとなんでだろうね」
「そんなことないよ、雲月サン。希望の象徴である君が、せっかくの才能をなんかなんて言わないでよ。…って、君たちと違って何も持ってないボクなんかが言うのも変かもしれないけどさ」
どこから現れたのか狛枝くんが自分を卑下しながら私を励ましてきた。あんまりうれしくない。
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