本sngk

□調査兵団団長とは
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久しぶりに休みがもらえた今日。あいにくの雨だったので、街に出るのも面倒くさくなってやめた。一人部屋でごろごろするのは、それこそ内地で働く人たちと同じになった気がして嫌で、今はたまにしか使われない屋内の訓練施設に向かった。



施設内はやはり誰もいなくて、筋トレや対人格闘術の復習をするにはうってつけであった。私以外の仕事中の調査兵は他の屋内施設を使うはずなので、一人きりでのびのびと使うことができる。一通り思い付く限りの筋トレをして、休憩をとる。雨は激しく降っているようだ。天井を叩く音がする。
―――ガタ。


「!」


天井を見上げていた頭を、音のした方に向ける。建物の入り口近くから音がしたようだったが、誰もいない。よく見ると、入り口横にある用具室の扉が少し開いていたので、中の物が動いて扉を押した音とかだろう。きっとあの中は物で溢れているはずだ。目を閉じて、深呼吸をする。…巨人がこわいのはもちろんだけど、幽霊などの類も苦手な私は落ち着


「やどり」

「ぎゃあああ!」


唐突に私の名前を呼ぶ声が聞こえて、先ほどのことと相まって思わず声をあげてしまった。目を閉じたままこわくて開けられない。両腕を大きく振って、声の発生源を近寄らせないようにする。幽霊だったら、どうしよう。


「ごめん、私だ。エルヴィンだ。目を開けて」

「?…」


エルヴィン団長を名乗るそれをいささか怪しみながらも、両腕の動きを止め恐る恐る目を開けると、そこには確かにエルヴィン団長がいた。目が合うと、驚かせてすまなかった、と目じりを下げて申し訳なさそうに微笑まれた。今、私はあからさまにほっとした顔をしていたに違いない。


「あ、お、お疲れさまです!こちらこそ大騒ぎしてすみませんでした」


ヤバい。恥ずかしい。よりによって訓練中でもなく、突っ立ってるだけの姿を見られてしまったし。その後の錯乱だってかなり見られたくないものだった。


「いいや、いきなり声をかけるのが悪かったよ。たまたま通りかかったら訓練していたようだったから」


言いながら、エルヴィン団長はちらりと用具室の方を見たようだった。そうそう、あのドアがガタ、なんて言わなければみっともない姿をエルヴィン団長に見せなくて済んだのに。それでもエルヴィン団長は気を使って「訓練」と言ってくれたらしい。その優しさがさらに私を気恥ずかしくさせた。


「…休みの日くらいゆっくりするんだよ。根を詰めすぎないように」

「!はい!」


やはり彼は爽やかに微笑みながらそう言うと、用具室の方へ行き、カギをひとつポケットから取り出す。


「まったく、誰が開けっ放しにしたんだか…」


ガチャン、とカギの閉まる音と共に、仕方ないといった呆れた笑顔で困るな、と呟いた団長は、もう一度私に向き合って、じゃ、と去って行った。


「おつかれさまです!」


せめて別れ際の挨拶くらいは印象が良いように、となるべく元気に声を出した。…そういえば、エルヴィン団長は私が休みって知ってたけど…団長ともなれば調査兵の休みも把握するんだろうか?さすが頭が良い人は違う。
長い休憩をとった私は、自己訓練を再開した。







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