偽りの夜想曲

□03.お茶の葉と鉤爪
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(これで戻った……のかな?)


砂時計の回転が止まったとき、ノアはこの場所の欠点に気づいた。

誰もいない閉鎖された狭空間のため、時間を遡った感じがまったくしないのだ。

大階段に戻り、大広間からぞろぞろ出てくる生徒達を下に確認してようやく実感が湧いてくる。


(っと、こうしちゃいられない)


周囲が今年最初の授業へ向かう中、ノアは2つ目の授業へと向かっていく。

ただでさえ広いホグワーツで、北塔のてっぺんまでひたすら階段を上るというのは、なかなかに疲れた。

動く階段を作れるくらいなんだから、エスカレーターにでもしてくれたらいいのにと思う。


(運動不足解消のためなのかなぁ)


箒で飛べて、姿くらましで移動できて、呼び寄せ呪文で物を手元に飛ばせて――。

優秀な魔法使いなら、ほとんど歩くことなく1日を終えられそうだ。


(そのわりにはみんなスマートだよね)


闇の帝王も、先生方も、ノアが知っている優れた魔法族はだいたいみんな細身だ。

もしかして体形管理まで魔法でできてしまうのだろうか。

太らせ呪文や髪を逆立てる薬があるのだから、理想の見た目を維持することも可能なのかもしれない。


(どうりで美男美女揃い……最高すぎでしょ魔法界)


「あなたも占い学を取ったのね」

『え?あ、うん。そうです』



いつの間にかパンジーが隣に座り、蒸し暑い教室に難色を示していた。

前の席にはドラコがクラッブ、ゴイルと3人で座っている。

ここは2人ずつのノアあぶれだと思ったから、ちょっとびっくりだ。



「何?」

『いや、えと、ドラコと座らないのかなって』

「ドラコにあれこれバレたら困るでしょ」



ツンと言うパンジーの頬は若干赤い。

たぶん、恋心的なあれこれなのだろう。

かわいいなあ……と眺めていると、パンジーは手で顔を仰ぎながらキリッと眉を吊り上げた。



「バラしたら殺すから」

『ぜ、絶対しません』

「そう。ならいいわ。ああそうだ、ドラコに聞いたんだけど、トレローニーって有名な預言者の末裔らしいわよ。どれほどのものか見ものね」

『うーん、でもこの授業は占い学だから……』

「何が違うの?」

『未来を見るか、未来を考えるかの違い?』



マクゴナガルは占いを“最も不正確な分野の1つと”称していた。

だけど不正確だからこそいいこともあると思う。

お茶の飲み方ひとつで未来が決まったら、おちおち休憩もしていられない。



『占いは程々に当たらないからいい、っていうやつですよ』

「はあ?当たらない占いに意味なんてないでしょう?」

『そうでもないですよ』



トレローニーの採用にダンブルドアの私情が絡んでいるのは置いておくとして、占い関係で2つもクラスがあるのだ。

魔法使いの教育において、それなりに重要な要素だと考えられているに違いない。


例えば自分を省みる時間を作っているとか、将来を考える一助になると考えられているか……。

少なくともベクトル先生の話を聞いた感じだと、数占い学の場合は、論理的思考だとか理論の組立方だとかを身につけることが目的のように感じられた。



『占い学の場合は、課題が“どう見えるか”が中心になってくるでしょう?だからお茶の葉や水晶玉を使って、深層心理を引き出したり、想像力を養ったり、魔法を使う上で必要な精神面の強化とかを――』

「ストップストップ。悪いけど、そういううんちく話はノットとやってくれる?」

『は、はい……』

「あなたと話しているとほんと疲れるわ。ねえ。ドラコもそう思うでしょう?占いも予言も同じよね」

「ああ……よくわからないが、要は頭の中にないことは水晶玉に映らないっていうことだろ」

『うんうん。そういうことです』

「さて、ポッターの水晶玉には何が映るかな」



背もたれに肘をかけていたドラコは、時間ギリギリに駆け込んできた2人を見てニヤリと笑った。
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