偽りの夜想曲
□03.お茶の葉と鉤爪
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翌朝、いつも以上に不機嫌そうなスネイプから時間割が配られた。
恐る恐る開いたそれには、通常ではありえない数の科目名が並んでいる。
覚悟していたとはいえ、改めて見るとえげつない。
“1日に10科目”なんてさすがにロンの誇大表現だろうと思っていたのに、2時限続きの授業を2とカウントすれば、ほぼ毎日が10以上。
宿題はもとより、集中力が続くか心配だ。
(というか“9時に占い学とマグル学と数占い学”って他の生徒も被らないのかな?)
首を伸ばして周囲の時間割を確かめると、ずいぶんすっきりしたものだった。
3科目取っているセオドールも被りはないし、パンジーの時間割には木曜の占い学がない。
どうやら選択科目は、週にいくつかあるクラスの中から2日ずつ受講することでまわしているようだ。
(え、じゃあなんで私は全部書かれてるんだろう)
忘れっぽいんだから何回でも受けろという、スネイプからの嫌味めいた気遣いだろうか。
だったらちょっと嬉しい。
今年は防衛術のクラスも多めだし、いい1年になりそうだ。
(さて、早めに移動しておかないと)
今日の1時限目は占い学と数占い学だ。
ノアは2つの科目名を交互に指差し、“数”の文字をはじいて席を立った。
教室には既にハーマイオニーがいて、ノアと目が合うと訳知り顔で口の端をわずかにあげた。
『2つ目?』
「違うわ。でも今頃どこかにもう1人の自分がいると思うと――」
ハーマイオニーが逆転時計を握りしめて目を輝かせたところで、教室のドアが開いてスリザリンの生徒たちが入ってくる。
ハーマイオニーは急いで口を閉じ、ノアも何食わぬ顔で後の席に座った。
「グレンジャーと何を話していたの?」
横を通り過ぎるとき、ミリセントが眉根を寄せて聞いた。
ダフネも刑事のような顔で見下ろしている。
そんなに仲良く見えたのだろうか。
それはそれで嬉しいことだが、グリフィンドール生とアクセサリーの話で盛り上がっていたと思われても面倒なので、ノアは『宣戦布告です』と適当なことを言った。
『12フクロウの通知書が楽しみですわね、って』
「それであの顔?」
「あの女、取るつもり満々っていうこと?」
『今のはあれですよ、私のやる気に感心していた感じ』
「そう……」
「負けるんじゃないわよ」
それ以上追求されることはなかったものの、呆れ半分の2人の顔にはまだ疑いの目がついている。
この調子では、ハーマイオニーと協力して席を確保し合う夢は叶わなそうだ。
(ま、誰も私の存在なんて気にしないだろうからいいんだけど)
数占い学を受講しているスリザリン生は5人。
ミリセントとダフネはいつも2人で行動しているし、ザビニは美人にしか目がいかない。
セオドールに至っては他人に興味がないため、驚くほど安全だ。
念のため1番後を定位置にしておけば、間違っても「いつ来たの?」なんて聞かれることはないだろう。
(聞かれてみたくはあるけれども)
ベクトル先生は9時ぴったりにやってきて、軽い自己紹介の後に授業を開始した。
ハーマイオニーが言っていたように、今この瞬間に、もう1人の自分が北塔でトレローニーの「彼方を!」を聞いていると思うと、不思議な高揚感に襲われる。
授業が終わる頃になると興奮はピークに達し、ノアはベルが鳴るなり教室を出てマートルのトイレへ向かった。
ここなら移動した先に誰かがいるかもしれないリスクを回避でき、個室で周囲からの視界もシャットアウトできる。
念のため“故障中”の張り紙を貼っておいた個室に入り、服の中から金の鎖を取り出すと、緊張と興奮で、時計を回す自分の手が震えるのがわかった。