偽りの夜想曲

□02.吸魂鬼
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夏休みの最終日、ノアはあっという間に過ぎ去った8月のことを振り返った。

クィレルの作った計画表は実に効率的で、短い間に3年生の内容をひと通り浚うことができた。

全てを覚えきった自信はないが、それでもOWLに向けていいスタートがきれるだろう。


特に“古代ルーン語”、“数占い”、“マグル学”の3つは、奇遇にもクィレルが選択していた科目だったおかげで、まったくの未知であるというハンデを覆すことができた。

杖を振る必要がない分、細部まで詰めることができるのもありがたい。

気になることは聞けるうちに全部聞いておこうというノアの意欲に、クィレルは最後まで舌を巻いていた。



「ま、またマグル学ですか?」

『ですです。この本すごくおもしろくて、ドハマリしそうです』

「意外ですね……あなたのような純血主義にとっては、な、軟弱でつまらない学科だと思ったのですが……」

『純血主義?私が?そう見えます?』

「見えますが……ち、違うんですか?」

『どうなんでしょう』



純血主義の人たちは好きだ。

マグル生まれを蔑んだり、都合の悪い人を家系図から抹消してまで純血を保とうとしているのはどうかと思うけど、そういう行き過ぎてるところまで含めて素敵だと思う。

ただ、好きだからといって自分も同じ考えかというと、それはちょっと違うと思う。

ノアは彼らほど自分に価値を見出せないし、だからこそ血に誇りを持っている彼らに惹かれるのだ。



『“純血主義”主義ってやつだと思います。たぶん』

「は、はあ……」



クィレルはさっぱりわからないという顔をしていた。それはそうだ。自分でもよくわからない。だからノアは、電気について質問をすることでお茶を濁した。







翌朝、ノアはいつもより1時間も早く目が覚めた。

今日から杖を使えるようになるだと思うと、嬉しくて仕方がない。

朝ごはんを食べ終わるなり『早く行きましょう』と急かすノアを、クィレルは「汽車の時間は変わりませんよ」と笑った。



「そ、それから……わ、私は見送りにいけません」

『えっ1人で行くの?』

「す、すみません」

『いえ全然!』



当然のことなのに、ガッカリが顔に出てしまった。

ノアは甘えきった考えに侵された自分に鞭を打ち、気を取り直してトランクを玄関まで運んだ。



『荷物よし、切符よし、バス代よし』

「き、気をつけて……ふ、フクロウ便を送ります」



玄関まで見送りに来たクィレルは、最後にハグをしてくれた。

すっかり気分を良くしたノアは、『イギリス最高!ハグ文化万歳!』と心の中で叫びながらキングズ・クロス駅へ向かった。
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