偽りの夜想曲
□13.秘密の入り口
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「さて諸君……何の説明もなく寮に戻らされ不満を募らせていることだろう。なぜこのような事態になったのか今から我輩が説明する――傾聴するように」
超満員の談話室で、スネイプが寮生に向かって威厳たっぷりの声を響かせた。
それまで「試合結果はどうなるんだ?」「両方とも不戦敗だろ」と好き勝手騒いでいたスリザリン生のおしゃべりが、ラジオの電源を落としたようにピタッと止まり、全寮生の目が黒い瞳に集まった。
ノアもいったい何があったのだろうという顔をして、スネイプに注目した。
「先刻、新たな犠牲者が出た。例の継承者による襲撃だ。石となって発見された生徒は2名。ハーマイオニー・グレンジャーと、ペネロピー・クリアウォーター――両名ともマグル生まれだ」
晴天の霹靂ともいえる知らせに、最初はみんな表情を強張らせているように見えた。
しかし犠牲者の名前が発表された途端に、強気なクスクス笑いが数箇所で起きた。
「我々教師陣は、この事態を重く見ている」
折りたたまれていた黒い翼の下から巻物が取り出されると、再び談話室はシンと静まり返った。
スネイプは十分に注目が戻ったことを確認し、羊皮紙を広げて先ほど取り決めた規則を発表した。
「全校生徒は夕方6時までに各寮の談話室に戻るように。それ以後は決して寮を出てはならない。授業に行くときは教師が引率する。トイレも同様だ。クィディッチは延期。夕方は一切クラブ活動をしてはならん」
厳しい規律に、何名かの顔が険しくなった。
なぜ自分達までそんな縛られた生活をしなければならないんだという不満がにじみ出ている。
スネイプが「規則は追加変更される場合もある」と言い残して去ると、途端にスリザリン生のおしゃべりが爆発した。
「先生は継承者がスリザリン生も襲うと思ってるのかしら」
「むしろ犯人を探っている風に見えたけどな」
「優勝杯はどうなるんだ?」
「このまま犯人が捕まらなければ、学校の閉鎖もありうるんじゃない?」
「まさか!ダンブルドアとマグル生まれを追い出せばすむ話だって、誰でもわかりそうなものなのになぁ」
ドラコは誰かの囁きに反応し、誰よりも大きな声を出した。
「何人かには話したけど、父上は既にダンブルドアの辞任を求める理事会の署名を集めているんだ。あとはファッジに提出するだけだ。……賭けてもいい。月曜の朝までに、ダンブルドアはホグワーツを去っている」
自信満々に言われ、どよめきが起こった。
待ってましたと喜ぶ子、そんなことは不可能だと思っている子、不安そうな子……一口にスリザリン生と言っても、全員がドラコと同じ考えではない。
それぞれが自分と同じ属性の子を探し、ヒソヒソ話をしている。
「さーて、6時までまだ時間がある。父上に手紙を出してこようかな」
ドラコは誰にともなく宣言し、大手を振って談話室を出て行った。
止めようとする生徒はいなかった。
「そうか週末の行動は縛られないのか」というザビニの呟きをきっかけに、寮生たちの話題は規則への不満に戻っている。
(面倒な規則だけど、毎回引率する方も大変よね……)
すっかり緊張感がなくなった談話室で、ノアは「トイレにスネイプ先生がついてくるの?」と眉をひそめる女子生徒を眺めながら、女子トイレ前に立つスネイプを想像して同情的な気分になった。
「ノア、僕らも行くなら今のうちだ」
スッと寄ってきたセオドールが、ノアに耳打ちをした。