偽りの夜想曲

□05.魔法薬学クラブ
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ピクシー小妖精を退治してロックハートにサイン入り著書をもらった生徒がいるらしい、という噂は瞬く間に広まった。

きっとまたロンがブツブツ言い、運悪く誰かに聞かれでもしたのだろう。

ノアは名前が出る前に口止めすべくロンの元へ向かい、途中で会ったフレッドとジョージから真相を聞かされて驚き呆れた。



『え、ロンから聞いたんじゃないの?』

「ロックハートだよ」

「あいつ、授業で“成績優秀者には私のサイン入り著書を差し上げましょう!”って言い出したんだ」

「それで“既にもらった人もいますよ”と」

「君の名前を出した」

『うわぁ』



開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。

本が余っているのか、本で生徒のやる気が出ると思ったのか知らないが、目立つのは良くないと言っておいてこれはあんまりだ。

どうせなら忘却術を教えてくれればよかったのに。

ただ本をもらっただけでこの注目っぷりは割に合わない。


(それにしてもほんと人気すごいなぁ……)


てっきり彼のファンは女性だけかと思っていたのに、嫉妬と羨望の眼差しは男子生徒からも飛んでくる。

絶対数が少ないとはいえ、今までその他大勢の中にいた身としては居心地が悪いの一言に尽きる。


ならば寮にこもっていよう、というわけにもいかなかった。

ロックハートファンはスリザリンにもいるわけで、噂を聞きつけたルームメイトたちはすぐにノアのことだと見抜き、ちょっとした騒動になった。



『み、みんなサイン会に行かなかったの?』

「売り切れだったのよ!」

「私はママが行ったんだけど、帰ってくるなりガラスケースに入れて金庫にしまっちゃったの」

『え。本なのに?』

「ギルデロイ・ロックハートのサイン入りよ。触らせてもくれなかったわ」

「私の家も同じ。このサインを手に入れるためにどれだけ苦労したと思ってるんだ――って」

『そ、そうなんだ……』


(サイン会なんて毎日でも開いてそうなイメージだけどな)


あれだけの目立ちたがりは世界中を探してもなかなかいないだろう。

カメラを持っている人がいれば勝手にフレームに入ってきて、頼んでもいないのにサインを追加するような人だ。

チャンスさえあれば、大広間でだってサイン会を始めかねない。



『え、えと……じゃあこれ、よかったらどうぞ』



ノアは鞄から“私はマジックだ”を取り出し、爪を噛んで悔しがってるパンジーに渡した。



『私はもう読んじゃったから……』

「正気?」

「本の虫のあなたが?」

「ロックハートのサイン入りよ?」


(だって自伝だし)


他人のものとはいえ、魔法で成しえた偉業が載っている他の本とは違う。

興味深くはあったが、繰り返し読みたいと思えるような内容ではなかった。

遠まわしにそのことを伝え、『みんなで読んで、最終的にパンジーにあげて』と言うと、抱きつく勢いで喜ばれる。

スリザリン女子がここまではしゃぐなんて、チャーミングスマイル恐るべしだ。



「そんなに良いものだとは思わないけどねぇ」



早速読み始めた3人を遠くから見守っていると、ドラコがやってきて鼻を鳴らした。



「たかがサインだろ?」

『憧れの人の、ね』

「ただのかっこつけじゃないか。どこがいいんだ」

『ハンサム、愛想が良い、ポジティブ、若い……のに、多くの偉業を成し遂げていると言われているからだと思いますです』

「なんだか嘘臭いな」

『気のせい気のせい』

「でもノアは、あいつのサインには価値がないって思ったから譲ったんだろ?」

『そんなことないけど、私はスネイプ先生のサインをらったからいいのですっ』

「……それもどうかと思うぞ」



ウキウキのノアを前に、ドラコが眉根を寄せる。

『見る?』というノアの提案は、丁重にお断りされた。



「で、ノアはどうするんだ?」

『うん?』

「クィディッチの選抜試験だよ。16時からグラウンドでって掲示が出ていただろう」

『ドラコで決まりじゃないの?』

「そう思うか?」



うっかり口を滑らせたノアに、ドラコはわかってるじゃないかと言わんばかりの顔をした。



「まあ、僕は小さい頃から箒の訓練を積んでいるからね。初心者に負ける気はしないな」


(あら、ニンバス2001が理由じゃないんだ)


足を組んだドラコが得意顔で始めたのは、おなじみの飛行自慢だった。

またそれかよ、というザビニの苦笑いもものともせずに、マグルのヘリコプターをすれすれでかわしたエピソードを声高に話している。

てっきり自分が選手になったら最新型の箒を買ってもらえると自慢すると思っていたのに、少し意外だ。



「でもまあ、ノアもなかなかのセンスをしていたと思うよ」

『えっ、本当?』

「スピードはいまいちだが、コントロールは良かった。良い箒に乗れば、上手になるさ」

『えっ、えっ、ありがとう』



意外な人物からの意外な評価に、ノアは浮き足立った。



『ドラコが言うなら受けるだけ受けてみようかな』

「いいんじゃないか?僕もライバルがいた方が張り合いがある」

『わぁ楽しみ』



見ているだけであんなにワクワクするのだ。

実際に参加できたらさぞ楽しいだろう。

男子だけの脳筋チームに女子が入れるとは思わないが、選抜試験でクァッフルを投げたりスニッチを追いかけたりできるならぜひやってみたい。



『いつの16時……って、今日!?』



ノアは掲示を確認しに行って意気消沈した。

まさに同時刻、例の罰則があったのだ。




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