stand by me
□[後日談]風呂上り
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一緒に暮らすようになってから、目に見えてリーマスの遠慮がなくなった気がする。
たとえば風呂上り。
リビングにレナがいることを知っているはずなのに、3回に1回は上半身裸のまま出てくる。
うっかりを装って目の前で着替え始めたりだとか、突然のバックハグだとかも日常茶飯事で、毎日振り回されっぱなしだ。
『り、リーマス!また!服は!?』
今日もまた、リーマスはパジャマのズボンだけを履いた状態でシャワールームから出てきた。
一応肩にタオルを引っ掛けているとはいえ、視界に移るリーマスの大半が肌色をしていることには変わりないわけで、早い話が目のやり場に困る。
『上もちゃんと着てから出てきてって言ったのに!』
「ああごめん。1人暮らしが長かったせいでつい」
『嘘ばっかり!前に居候していたときは、こんなハプニング1回もなかったじゃん!』
「そうだったかな。よく覚えてるね」
笑って誤魔化すリーマスに、反省の色はまったく見えない。
髪を拭きながら――つまり身体を覆っていたタオルが上にずれるわけで、ますます目のやり場に困る状態を作って――暖炉前のソファに移動してくる。
「私のような貧相で汚い傷だらけのおじさんの身体を見たところで何とも思わないだろ?」
なんていう自虐的言い訳つきでだ。
自然体でいてくれるのは嬉しいことなのだが、リーマスの場合はレナの反応を見て楽しんでいる節があるから素直に喜べない。
「それとも見苦しいという意味かな?それなら気をつけないと――」
『貧相なおじさんに興味はないけど、リーマスには興味があるからダメなのっ』
「ははっ肉食系女子ってやつかい?」
『そんな言葉どこで覚えてきたの?』
「同僚がレナのことをそう言っていたんだ。面白いよね。人狼の私が草食で、人を噛むことがないレナが肉食なんて」
『面白くないっ』
まったく同僚は何を考えてるんだ。
狼人間であるリーマスが肉食だの草食だのと聞いて、自分の体質に結び付けないはずがないじゃないか。
リーマスの眉がわずかに下がったのを見逃さず、レナはこの話題を終わらせるためにシャツを1枚ソファに投げた。
『それ着てくれるまで口利かないんだから』
「わかったわかった。降参だ。私が悪かったよ。それじゃ私がこれを着る代わりに、レナが私の髪を乾かすっていうのはどうかな?」
何が「どうかな」なんだ。
条件をつけたのはこちらのはずなのに、どうしてリーマスから対価を要求されなきゃいけないんだ。
――なんていちいち気にしても無駄だ。
リーマスは昔からはぐらかすのが得意で、論点すり替えはお手の物。
選択肢を挙げるときは、大抵どちらを選んでもリーマスが得をするようにできているのだから。
『しょうがないなぁ』
しぶしぶ……なんて態度をとりながら、タオルを持つ私は結構嬉しかったりする。
いつもは手を伸ばしてやっと触れる位置にあるリーマスの髪を思う存分わしゃわしゃできるなんて、こんな棚ぼたラッキーはない。