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□[後日談]欠陥英雄
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雪解けの湿った季節が終わり、夏を待つ爽やかな陽気が続いていた。
5月の始めが終戦記念日だということで、毎日その当時の話が耳に入ってくる。
明るい話題も、暗い話題もあった。
新聞や人伝いに話を聞くたびに、一緒にいた人達がいかに勇敢で優秀で、死と隣り合わせの任務をしていたのか、改めて思い知った。
レナが戻ってからたった1年。
決着がつくまでに、たくさんの騎士団員が亡くなっていた。
とりわけフレッドのことはショックだった。
学生が多数犠牲になったという話も胸が痛む。
リーマスが生きていることが奇跡のように思えた。
「あれってルーピンじゃない?狼人間の」
リーマスのことを考えながら歩いていたら、どこからかその名前が聞こえてきた。
即座に反応したレナは、いやいやまさかと首を振る。
自分が今いる場所は、勤め先のエントランスホールだ。
リーマスがいるわけがない。
それでも気になって周囲を見回すと、壁に肩を預けるようにして寄りかかっている長身の男性の姿が目に入った。
『リーマス!』
レナはすぐに駆け寄った。
白髪混じりの髭の下に緩やかに弧が描かれ、目尻にしわができる。
レナの好きな笑顔だ。
『どうしたの?仕事……ではないよね?』
「早く終わったから一緒に帰ろうと思って来てみたんだ」
『うそっ。いつから待ってるの?言ってくれればよかったのに!』
「教えたら驚いてくれないじゃないか。もう終わりかな?」
『ごめん、まだ片付けが残ってるから、あと20分くらいかかっちゃう』
「いいよ。待ってるよ」
『急ぐね!』
走って自分のフロアに戻ったところで、周囲の視線が自分に向いていることに気づいた。
男を会社に連れ込むなんて!と怒られると思ったが、そうではなかった。
彼女らの関心は、突然現れた魔法省の有名人にあった。
「今のってルーピンよね?どこで知り合ったの?レナってこっちに来てまだ1年も経ってないでしょ?」
『昔、ちょっと、お世話になったことがあって……』
「へー!すごい!」
「え?何?サクラってルーピンと知り合いなの?」
「ルーピンってあれだよね?人狼なのにマーリン勲章もらった人」
最初に話しかけてきたのが声の大きな魔女だったため、フロア内がリーマスの話題一色になった。
それぞれが近場の人と、リーマスについて噂話をしている。
レナはさっさと切り上げて逃げようと思ったが、帰り支度を整えたところで「で?なんでそんな人がこんな場所にいるの?」という話になった。
注目が集まり、ごまかせないと思ったレナは、ぼそぼそと恋人なのだと告げた。
「えええっ」という大合唱が起こった。
「なんで?」「うそでしょ?」という追撃から逃げるように、『おつかれさまでした!』と叫んでフロアから飛び出した。