stand by me

□逆転時計
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リーマスは暗闇の中で雨に打たれていた。

冷たい雨だ。

周りには誰もおらず、話し声も足音も聞こえない。


闇の帝王の力が消えたことで、世間は明るさを取り戻しつつあった。

しかし、リーマスの世界は闇に包まれたままだった。

ダンブルドアやマクゴナガルが気を使って声をかけてくれたが、何を言われたか覚えていない。

ただ呆然と、世界から切り離された場所で、独り雨を見つめている。


リーマスを支えてくれていた3人の親友は、一度にみんないなくなってしまった。

1人は闇の帝王の手によって、1人は裏切り者の手によって、残りの1人は裏切り者として、リーマスの前から姿を消した。


(シリウス、君はいつも性急すぎるんだよ)


リーマスに事の真相を伝えることもなく、闇払いの到着も待たず。

たった1人でピーターを追いつめたがために、シリウスは罠にはめられ、12年間という長い間、アズカバンの監獄で独りきりだ。

それはきっと、リーマスが感じていた孤独よりもずっと恐ろしいものだったに違いない。


(次は何年後に出てくる気だい?)


脱獄は絶対に不可能だと言われていたアズカバンからも出てきたシリウスのことだ。

ベールの裏側からもひょっこり現れるのではないかと思ってしまう。

15年後か、20年後か、ひょっとしたら明日――。


(次は事前に一報を入れてくれると助かるな)


叫びの屋敷での再会は散々だった。

敵を討ち取り損ね、変身して互いを傷つけあい、片や辞職、片やあやうく処刑されるところまでいった。

それもこれもシリウスが突然現れたせいだと、脱狼薬を飲めなかった責任をシリウスに押し付けたら「変わってないな」と笑われた。


(変わってないのは君だよ、シリウス)


事情が事情だったため、あのときは離れ離れになっていた時間を埋めるだけの会話をすることができなかったが、手紙をあだ名で送りあううちに、すぐに昔の感覚を取り戻した。

騎士団が再結成され、家に来るようになって、グリモールド・プレイスに移動をして――任務がないときには昔語りをしたり、喧嘩をしたりした。

こんなことを言ったら本人は怒るだろうが、シリウスの中身が全然成長していないため、学生時代に戻れたような気さえした。


(またみんなで散歩に行ければいいんだけど)


次に脳裏に浮かんだのは、4人で満月の夜に城を抜け出して森を散策したときのことだった。







突然、ガタンと大きな音がした。

音がしたほうにゆっくり目を向けると、驚いた表情のレナがいた。

長いこと昔のことを考えていたため、すぐには思考が追いつかない。

そうかシリウスは死んでしまって、ここは自分の家の風呂場で、出てこないのを心配したレナが様子を見に来たんだ――。

そんなことを順を追って思い出している間にも、レナは焦った様子で何かを言っている。



『とにかく水を止めて1回外に――』



手が伸ばされてきたので、つかんだ。

そのまま引き寄せ、腕の中に収める。


(暖かい……)


触れられることに、生を感じられることに、涙が出てきた。

シリウスはもういない。

死を確認することすらできなかった。



「……ごめん」



シリウスに仲良くなるよう頼んだのは自分だ。

3月10日に帰らせないという判断をしたのも自分だ。

知らなくてもよかったことを知り、しなくてよかった辛い思いをさせた。

それらは全て、自分可愛さにレナを利用したリーマスの責任だ。

滞在が長引けば長引くだけ、同じようなことが起こる危険性が高まる。


(でも……)


もう少しだけと言い訳のように呟きながら、腕に力を込める。

あと少しでいい。

自己中心的だと罵られてもかまわない。

せめてシリウスのことから立ち直れるまで一緒にいてほしい。



「もう少しだけ、このままでいさせて」



背中にまわされた手はやっぱり暖かくて、雨と一緒に流し尽くしたはずの熱いものが目尻から溢れて頬を伝った。




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