わがまま王子と私の365日
□わがまま王子と私のクリスマス・パーティ
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わがまま王子は朝からご機嫌だ。
なぜなら今日からホグワーツはクリスマス休暇に入り、変態わがまま王子の本性を隠す必要がなくなるからだ。
礼儀正しくルシウスに一礼してから帰っていく後輩達を見送り、自家用馬車に乗り込んだ途端、マリアの腰に手をまわしてくる。
マリアはその手を軽く払い、心の中でため息をついた。
「やはり家はくつろげていいな」
『さようですね』
家に着くなり、ルシウスはマリアを呼びつけ、あれこれと雑用を押し付けた。
そのためマリアはまったくくつろげていないのだが、家に帰ってきた以上はマリアはメイドだ。
クリスマスパーティに向けての準備を考えれば、荷物の整理をしながらルシウスの話し相手をすることなど造作もない。
『学校とは違ってお互い変に気を使わなくて良いですからね』
「おや。君は私に気を使っていたのかい?」
『ええ、それはもちろん』
そうでなければ、今頃マルフォイ家の評判は地に落ちている。
『正確にはアブラクサス様に、ですが』
「何を気を使うことがある。私と君の仲ではないか」
『外聞、というものがございます。ルシウス様も分かっていらっしゃるからこそ、あのような真面目な態度を取っていらっしゃるのではありませんか?』
「さすが私のことをよくわかっている――マリア、髪がほどけた」
ソファに腰掛けてマリアの姿を目で追っていたルシウスは、シルクのリボンを目の高さでひらひらと揺らした。
つい先ほどまでは、しっかりとしばられていたはずだ。
『そういうのは“ほどけた”ではなく“ほどいた”というのです』
「どちらでも同じことだ。直してくれ」
『……かしこまりました』
鏡台へ、と言っても動かないのは目に見えていたため、マリアはブラシを手にソファの後ろ側に回った。
「横へ」
『ですから、後ろからでないとやりにくいとあれほど――』
「私が君に、横へ来るよう言っているんだ」
『はいはい、わかりました!』
気を使ってルシウスを立てなくても良いという面では、家は楽だ。
ただ、ルシウスも回りの目を気にしなくて良い分、わがまま度がアップする。
学校に行く直前や、帰って来た直後は特にひどい。
「2人きりは久しぶりだな、マリア」
『昨日も一昨日もその前も、監督生の仕事をしている時は2人きりでしたが?』
「見回りではムードがない。私が肩を抱こうとしただけで君の鉄拳が飛んでくるからね」
『マルフォイ家の名誉のためです』
「愛の鞭、というやつか」
『ええまあ、そういうことでいいです』
「では家では何をしても」
『いいわけありません!』
すかさずキスをしてこようとするルシウスの顔をブラシで受け止め、マリアは今度こそ隠さず長い息を吐いた。
「どうしたマリア、ため息なんかついて」
『いえ、少々疲れが出ただけです』
「そうか。では今日は早めに休むと良い。なんなら私の膝の上で」
『結構です』
「では腕枕」
『間に合っています』
家と、学校と、どちらが楽だろうか――。
マリアはついてこようとするルシウスを自分の部屋に入れないようにするためにそれから30分ほどかけて説得し、ようやく安息を得た。
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