比翼の風見鶏

□[番外編]スラグクラブ
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その晩以降、ヒナノがドラコの周りをうろつくことはなくなった。

ドラコがそのことに気づいたのは1週間後。

本格的なクィディッチシーズンが到来してからだ。

そうか練習で忙しかったからかと納得すると同時にどこか残念な気持ちになっていることに気づき、ドラコは眉根を寄せて邪念を振り払った。


ドラコには他に考えなければならないことが山ほどあった。

その筆頭が失敗してしまった先の任務の後始末だ。

呪いのネックレスがスネイプの手に渡ってしまった以上、ボージンアンドバークスの品だと気づかれるのは覚悟しておかなければならない。

出所がわかれば、スネイプはきっと購入者を調べに行く。


硬く口止めしておいたからボージンが口を割ることはないと思うが、スネイプが真実薬や開心術まで使うつもりならどうなるかわからない。

気をつけるよう手紙を送っておくべきか、それとも記憶を消すか――そういった行動をドラコが取ることを見越し、罠を張っている可能性もある。


(面倒だな)


死喰い人で寮監という立ち位置のスネイプは、実にやっかいな存在だった。

少し前までは、スネイプに何かを言われたとしても、形だけで、今までのように甘く見てくれるだろうと思っていた。

しかし事件の後に呼び出され、事情を聞かれたときに考えが変わった。

もしかしたらスネイプは手柄を横取りするつもりなのかもしれない、と。


(じゃなきゃあんな探るような目をしていないはずだ)


情報収集という名目でホグズミードでの行動を尋ねてきたスネイプは、嘘があれば絶対に見逃さないぞという目をしていた。

幸いにもドラコはヒナノというアリバイを用意していたため、自分の行動を嘘偽りなく話すだけでよかった。

堂々と「ヒナノにも聞いてみてください」と言うドラコに「そうしよう」と返したスネイプの眉間に寄っていたしわが、追求する余地がなかったことを示している。


(やっぱり、次へ進むべきなんだろうな)


たとえスネイプがボージンからドラコの名前を引き出したとしても、ドラコがケイティ・ベルに三本の箒のトイレでネックレスを渡したという証拠はないわけだから、捕らえたり裁いたりすることはできないはずだ。

だったら焦って下手な火消しをするより、キャビネットの修復や次の作戦を練ることに時間を使ったほうがいい。


問題は、その時間がなかなか取れないということだ。

開幕戦が迫って練習が増加しているのはドラコも同じことで、周囲の目を避けようと思うと寝静まった頃にこっそり寮を抜け出すしかなく、とても満足に修理できたものではない。

このままではいけないと判断したドラコは、試合の3日前にハーパーを呼び出した。



「僕の代わりに試合に出ろ」



ドラコが命じると、ハーパーは目を丸くして驚いた。



「理由は聞かないことが条件だ。それから当日まで誰にも言うな。先生にもだ。代わりに僕のニンバスも貸してやる」

「なんだって?いったいどういう風の吹き回しだ」

「別に。ただもうクィディッチなんていう幼稚な遊びには興味がなくなっただけだ。……だけどほら、寮杯もあるだろう?引き継ぐなら勝つ見込みがあるやつがいいと思ってね」

「そりゃ……だけどお前……僕……えっ、本当に?」



思いがけず花形のポジションを手に入れたハーパーは、喜びやらプレッシャーやらで、しばらく混乱していた。

それでもドラコが「気が向かないなら別のやつに頼む」と言って背を向けると「やるよ!」と叫んで鼻息を荒くした。



「やるよ。僕がやる。条件ものむ」

「オーケー、交渉成立だ」



正直シーカーの座を譲るのにはかなりの抵抗があった。

それがグリフィンドール戦ともなればなおさらだ。けれどドラコは決断した。


クィディッチの勝敗なんて小さなことはどうでもいい。

寮杯だって何の意味もない。

自分はもっと大きな勝負をしているんだ。

こっちで勝てば、すべてがうまくいく。

――そう、自分に言い聞かせて。
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