比翼の風見鶏
□呪われたネックレス
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それから2週間はあっという間に過ぎ去った。
話に聞いていた通り、先生方はみんな授業の最初にOWLについて長々と語り、毎日たくさんの宿題を出した。
慣れない監督生の仕事が加わったこともあり、気づけば寝る時間という日が続く。
久しぶりの休息がやってきたのは、9月半ばの土曜日だった。
この日はグリフィンドールのクィディッチ・チームの選抜試験がある日で、木枯らしの吹くクィディッチ競技場にたくさんのグリフィンドール生が集まっていた。
20人……いや30人はいるだろうか。
予想を大幅に上回る応募者数に、新キャプテンのハリーもたじたじになっている。
見かねたジニーが「静かに!」と大声を出したことで、ようやくガヤガヤが収まった。
『ジニーってば、副キャプテンみたいね』
「あら?ヒナノ、こっちにいていいの?」
マフラーを巻いて観客席に座ったヒナノを、ハーマイオニーが驚いた顔で見上げた。
「チェイサーになるんだって張り切ってなかった?」
『うん。だけど監督生が意外と忙しくて。クィディッチも始めたら宿題まで手がまわらないかなと思って今年は諦めることにしたの』
「偉いわね。誰かさんに聞かせてあげたいわ」
笑うハーマイオニーの視線の先には、緊張でガチガチに固まったロンの姿がある。
どうやらいつもの悪い癖が出たようだ。
今にも吐きそうな顔で、箒を握り締めて小さくなっている。
『隣にいる人もキーパー希望なのかな?さっきからこっち見て話してるけど……』
「きっとロンにプレッシャーをかけにいっているんだわ」
ハーマイオニーは少し怒ったように言った。
ロンのプレーが本人の気分に左右されやすいことは、周知の事実だった。
『もっと自信持っていいのにね。監督生もやって、クィディッチもやって、おまけにDAまでやってたんだもの。……まあ、宿題や監督生の仕事はハーマイオニーに頼りきりだった部分もあるんだろうけど』
「でも実際、ロンは頑張ってたわ」
「ほんと、ロンって素敵」
前方で見ていたラベンダー・ブラウンがうっとりした表情で言った。
しかしフィールド上のロンは素敵とは程遠かった。
箒にまたがっているのがやっとといった状態で、ゴールを防いでいるのか、箒から落ちそうになったロンをクァッフルが叩いているのかよくわからない。
対するコーマック・マクラーゲンは、大きな体を自在に操り、力強いセーブをくり返している。
このままではキーパーの座を取られてしまうかもしれない。
そう思われたとき、ハーマイオニーが咳払いをするように口元を手で覆って何かを呟いた。
するとコーマックは急にあさっての方向に飛びつき、みすみす得点を許した。
『……いま何かした?』
「ちょっと応援しただけよ」
ハーマイオニーは肩をすくめ、嬉しそうにロンに拍手を送った。
*
「正直、最後はあぶないと思ったね」
ハーマイオニーが援護したとも知らず、選手に選ばれたロンは談話室のソファにふんぞり返って“キーパー論”を語って聞かせた。
「コーマックのやつ、泣いてないかな。あいつ、ハーマイオニーに気があるみたいだぜ」
「嫌なやつよ」
「ねえ、この呪文知ってる?“セクタム・センプラ”ってやつ……」
ロンとハーマイオニーの間に、ハリーがボロボロの教科書を持って割り込んだ。
前の持ち主の書き込みがある古い教科書で、それに従ったハリーは魔法薬学の初回授業でハーマイオニーを抜いてトップの成績を取り、スラグホーンにご褒美をもらったらしい。
「その本を返すべきよ」
ハーマイオニーは頑として言った。
何があろうと“公式”の指示に従うべきであり、見知らぬ誰かの書き込みに従って調合をすべきではないというのがハーマイオニーの主張だった。
「ちょっと見せて。誰の本か知りたいの」
「ダメだ」
「どうして?」
「本が脆くなってる。――あ!」
手を伸ばすハーマイオニーから逃げてきたハリーから、ジニーが教科書を取り上げる。
すばやく中を確認したジニーは、「プリンス」と呟いた。
「そう書いてあるわ。半純血のプリンス蔵書」
ジニーは本を閉じ、ハリーに投げて返した。
当然「あああの人か」とはならなかった。
みんなプリンスなんていう名前の人は知らなかったし、イギリスの魔法界に王家があると聞いたこともない。
可能性があるとしたらブラック家だが、あの家はきっと半純血の者が“王子”と名乗ることを認めないだろう。
「マルフォイを連想したでしょ」
ブラック家の家系図を思い出していたヒナノに、ジニーがニヤリと言った。
そんなことあるわけない。
ドラコはハリーと同学年だ。
ヒナノは言い返したが、ジニーのせいですっかり王冠を被ったドラコのイメージが定着してしまった。
*