比翼の風見鶏

□裏切りの新学期
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9月1日の朝はいつになく仰々しかった。

ご飯を食べている間も騎士団の人がせわしなく出入りし、運転手の本人確認がどうとか闇払いの人員配置がどうとか、真剣な面持ちで報告をしていく。

まるで政府高官の警備任務を仰せつかっているようだが、驚くべきことに、彼らが話しているのは15,6歳の子供たちの通学方法なのだ。



「さあ時間よ。みんな揃った?忘れ物はない?準備ができたらこっちに並んで。流れは覚えているわね?2、3人ずつ固まって、大人から離れないようにするのよ。さ、ジニー、ヒナノ、あなたたちが最初よ」



ウィーズリーおばさんはヒナノとジニーをひとまとめにし、病院に行くかのような顔で玄関扉を開けた。

外は相変わらず暗く、寒々しい。

ヒナノはトランクの取っ手を短くして持ち上げ、ジニーに続いて慎重に石段を下りた。


ヒナノたちはまず、各々の荷物を持って騎士団本部の正面にある公園へ移動しなければならなかった。

ウィーズリーおばさんの話では、そこに魔法省の車が迎えにくるらしい。


石段を降りて歩道に出たとたんにグリモールド・プレイス12番地が霧のように消えてなくなり、全員が通りを渡り終えるとタイミングを計ったように黒塗りの車が2台滑り込んできた。



『……なんだか偉い人になった気分だね』

「ほんと窮屈」


ジニーは広々した後部座席に乗り込みながら、去年は騎士団に囲まれて駅まで歩いたのだと教えてくれた。

ここからキングズ・クロス駅までは徒歩20分くらいだろうか。

その道中すら危険と判断されるなんて、世の中いったいどうなってしまうのだろう。


キングズ・クロス駅にはさらに2人、マグルの黒いスーツを着込んだいかめしい髭面の男が待っていた。

男達は車が停車するなり進み出て一行を挟み、ひと言も発さず駅の中まで行軍させた。

どこからどう見ても異様だ。

駅の構内を抜ける短い間にも、何人かのマグルが首をかしげて振り返っていた。



「自分で歩けるよ、せっかくだけど」



プラットホームの中ほどで、ハリーがつっけんどんに言った。

闇払いの1人が、9と3/4番線に通じる壁を共に抜けようとハリーの腕を掴んだところだった。

ハリーはイライラと男の腕を振り解き、1人でカートを押して壁に突っ込んだ。

慌てて追いかける男に続き、他のメンバーが壁を抜ける。

9と3/4番線は、出発を待つ生徒や家族でいっぱいだった。


すすけた蒸気の下を歩きながら、ヒナノは無意識にプラチナブロンドを探していた。

いつもならこのあたりで「やあ」と気取った声がかかるはずだった。



「ご両親とはぐれちゃったの?」

『いえ……大丈夫です』



見ず知らずの人に声をかけられたところで、ようやく自分が何をしているのか気づく。

ヒナノは急いで回れ右をし、人ごみの中を引き返した。


もうホームに残っている子は少なかった。

あちこちの窓から顔を出し、家族と別れを告げている。

ジニーの姿もあった。

ウィーズリーおばさんが「クリスマスには家もすっかり元どおりになっていますからね」と言い、後を振り返ってハリーを呼んでいる。

ハリーはまだ、ホームでウィーズリーおじさんと話をしていた。


ヒナノも2人にお礼とお別れを言っていこうと思った。

しかしそこで汽笛がなった。

もう出発だ。ヒナノは慌てて近くの車両に飛び乗った。



「体に気をつけるのよ!それから――いい子にするのよ。それから――あぶないことをしないのよ!」



汽車が動き出すにつれ、ウィーズリーおばさんの声が後に流れていく。

ヒナノは通路に溢れていた子どもたちがコンパートメントに引っ込むのを待って、先頭の車両を目指した。

監督生は全員、そこに座ることになっていた。



「ああよかった、ヒナノ、こっちよ。先に乗ったと思ったのにいないんだもの。どこにいたの?」

『ごめんハーマイオニー、うっかり後のほうまで行っちゃったの』

「今朝あんなに話したのに……でも思い出してよかったわ。座って。トランクはこっち」

『うん。ありがとう』



トランクを座席の奥へ追いやってから、ヒナノはコンパートメント内を見回した。

周囲は見知った顔が多く、少し先の棚に青色の荷物がチラホラ見える。

スリザリンは機関車に1番近いところに陣取っているようだった。



「マルフォイならいないぜ」



ロンが見透かしたように言った。



「さっきパーキンソンを連れて出て行った」

『まさかもう仕事を始めているの?』

「そう思うだろ?ところがどっこい」

「仕事をする気がないみたいなのよ」



ロンに続き、ハーマイオニーが声と眉をひそめた。



「くだらない、ままごとみたいだ、って言ってたわ」

『ドラコが?監督生の仕事を?』

「ええ。“誰にでもできる安っぽい仕事を喜んでするやつの気が知れない”ですって」

「だったら辞退してバッジを返納しろってんだ」



ロンが後続車両に続くドアに向かって中指を立て、ハーマイオニーが慌てて肘でつついた。

ちょうど7年生が立ち上がり、説明を始めるから注目するように言ったところだった。



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