比翼の風見鶏
□闇の横丁
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8月に入ってすぐ、ホグワーツからフクロウ便が届いた。
ハリーがダンブルドアと一緒に新しい先生を説得しに行ったという話を聞いていたため閉校の心配はしていなかったが、手紙を開くのはいつも以上に緊張した。
ヒナノがグリモールド・プレイスに来て数週間。
聞こえてくるのは変わらず暗いニュースばかりだ。
吸魂鬼の襲撃事件に、奇妙な事故。
ダームストラング校の校長が殺されたという知らせもあった。
もしホグワーツからの手紙に魔法省公報のようなものが書かれていたら、父はここぞとばかりにウィーズリーおばさんとタッグを組んで「やっぱり学校も危ないんだ!」と言ってくるだろう。
「――これであなたは、監督生と同じ待遇よ!」
先に教科書リストから目を通していたとき、ハーマイオニーが嬉しそうに叫んだ。
「私たちと同じ、特別なバスルームも使えるわ」
「わーお、チャーリーがこんなのをつけてたこと、僕覚えてるよ」
ロンも大喜びでハリーの手にあるバッジを眺め回している。
監督生バッジとは違う。
だけど見覚えのあるバッジだ。
チャーリーではない、他の誰かが同じものをつけていた気がする。
『……アンジェリーナの?』
「そうよ!クィディッチ・チームのキャプテンがつけるバッジだわ!」
「ハリー、かっこいぜ。君は僕のキャプテンだ」
ジニーが手を叩いて喜び、ロンが「君が僕をチームに入れてくれればだけど……」と乾いた笑い声を発した。
『すごいわハリー!選抜試験をやるときは絶対に教えてね!私、今年はジニーと一緒にチェイサーで応募したいの!』
ヒナノが勢いよく立ち上がったときだった。
膝から床に滑り落ちた封筒から、なにやら硬い音がした。
不思議に思い拾い上げて逆さにしてみると、中から赤と金のバッジが出てきた。
それこそ見覚えのある、グリフィンドールの寮旗にも描かれているライオン模様の上に、大きくPの文字が乗っているバッジだ。
にわかには信じ難くて、ヒナノはしばらく手のひらに乗った“P”の文字をぽかんと見つめていた。
「ヒナノ、それ……監督生バッジじゃない?」
『そうみたい……』
興奮を抑え切れないジニーの問いかけに呟くように答えると、2度目の歓声がワッと上がった。
「おめでとう!」
「やったな!」
「そうじゃないかと思ってたいたわ!」
『私……私が?』
封筒に入っていた任命書を見ても、まだ信じられなかった。
ヒナノはハーマイオニーのように頭がいいわけでもなければ、ロンみたいに周囲を和ませる能力があるわけでもない。
どちらかと言えば単純で、堅物で、よく考えもせずに1人で突っ走っては、周囲に怒られている存在だ。
「きっといい監督生になるわ」
困惑するヒナノの腕を、ジニーが掴んで励ました。
「わたしと違ってお行儀がいいし、何事にも一生懸命だもの」
「責任感もあるわ。それに、人望もある」
「偉ぶらないし、他人を悪く言うこともない」
「マルフォイやザカリアス・スミスですら友達だもんな」
ジニー、ハリー、ロンも続いた。
褒められ慣れていないヒナノの顔は、またたく間に赤く染まっていった。
『待って。持ち上げすぎよ。私、繊細さが足りない、野蛮だって散々言われてるし、スネイプにも目をつけられているわ。アンブリッジにも、身の程をわきまえろって散々言われたし……』
「コウモリとガマガエルは別よ」
「あいつら“人でなし”だもんな、うん」
ジニーとロンの息の合ったやりとりに、“人”という言葉を用いていたハーマイオニーとハリーが笑った。
ヒナノはまだ笑う余裕はなかったが、じわじわと嬉しさがこみ上げてくるのがわかった。
元スクイブの私が、監督生。
日本の魔法学校からは入学すら許可をされなかった私が――。
手紙を持って両親に報告しに行くと、2人とも自分のことのように喜んでくれた。
父親も「日本へつれて帰るわけにはいかなくなってしまったな」と目尻を下げ、お祝いに箒を買ってくれる約束もした。
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