比翼の風見鶏
□[番外編]ドラコ・マルフォイの選択
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今年1番の暑さを記録した日が暮れようとしていた。
ウィルトシャーの人里離れた場所にある豪邸の壁を、西日が朱色に染め上げている。
ドラコは青々と茂る芝生に落ちた長い影が薄くなるのを待ち、箒を持って庭に向かった。
「あらドラコ、今から練習をするの?」
「ええ、母上。今年も試合が行われるかはわかりませんけどね」
玄関ポーチで違ったナルシッサに、ドラコは気取って答えた。
「だってあの人が実権を握ったら、ホグワーツの寮が減るかもしれないでしょう?」
「ええそうね。でもドラコ、」
「外では言わないよ」
わかっているとばかりにドラコはニヤリと口角を上げた。
「僕としては、魔法省がダンブルドアをホグワーツの校長の座から引きずり降ろしてくれると嬉しいんだけど」
もう8月になるが、学校からの手紙は届いていない。
理由は聞かなくともわかる。
闇の魔術に対する防衛術の教師が見つかっていないのだ。
このまま決まらなければ、魔法省がダンブルドアに代わって人探しをすることになる。
そうなれば当然、ファッジの息のかかった者を推すだろう。
どうせなら、校長ごと魔法省が指名して欲しいところだ。
「でも母上、いつになったら大々的に“あの人”の復活を宣言できるようになるんです?」
「もっと大勢の仲間を得たらよ。あの方は、魔法省もダンブルドアも一蹴できるような、強大な戦隊をお望みだわ」
「ふぅん。早く完成するといいなぁ」
ドラコはクリスマスを待つ子供のように言い、ニヤニヤしながら外へ出た。
*
三大魔法学校対抗試合の最終戦から1か月。
1人の生徒が亡くなっているというのに、思ったほど世間は騒いでいない。
というのも、魔法省がセドリック・ディゴリーの死を“不幸な事故”と片づけ、新聞の一面に載せることすらしなかったのだ。
闇の帝王の復活に関してもそうだ。
唯一の目撃証言は、思い込みが激しく目立ちたがりな少年の作り話だとされている。
ダンブルドアだけは「復活は本当だ」と声高に宣言しているが、魔法省は正常な判断力を失った年寄りのたわごとだと反論し、その場で国際魔法使い連盟の議長職を剥奪した。
噂によれば、ウィゼンガモット法廷の主席魔法戦士からも降ろされ、勲一等マーリン勲章の剥奪も見当されているらしい。
「フン……ダンブルドアもポッターも、もうおしまいだ」
ドラコはすぐには飛ばず、バラ園近くのベンチに座ってふんぞり返った。
一足早く暗闇に落ちた林から、比較的涼しい風がほのかに甘い香りを纏って透き通る髪を揺らしていく。
「ヒナノに新聞を送ってやろうかな」
最近の日刊預言者新聞には、ハリー・ポッターの名前がよく出てくる。
去年のように大々的に一面を飾ったり、数日にわたって特集を組まれたりしているわけではない。
例えば今朝は、魔法事故惨事部のお世話になった目立ちたがりの馬鹿な魔法使いの失態のオチとしてその名前が使われていた。
“ハリー・ポッターにふさわしい話”、だっただろうか。
今や生き残った男の子の名前は、他人を茶化すときに使うジョークの常套句なのだ。
「間違ったのと付き合うとこうなるっていういい見本になるだろう」
ハリー・ポッターもダンブルドアも、全く信用できない人物として世間に広まっている。
日刊預言者新聞を使った魔法省の企みが、今のところうまくいっているからだ。
その背後に、去年リータ・スキーターが書いたハリー・ポッターの奇行に関する記事があることを考えると、笑いが止まらない。
「切り抜きを2,3枚……選ぶのが大変だな」
ハリー・ポッターが英雄視された時代は終わった。
ダンブルドアも信用を失った。
それをヒナノに教えてやることこそが自分の使命だと、ドラコは意気揚々と薄紫色の空へ飛び立った。
*