比翼の風見鶏

□果たされることのない約束
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ルーピン先生と話をしてからイースター休暇までの間に様々なことがあった。

とりわけ大きな事件がレイブンクロー対グリフィンドールの試合後に起こったシリウス・ブラック2度目の侵入事件で、その晩グリフィンドール塔では誰一人ベッドでゆっくり眠ることができなかった。

全員が談話室に集まり、うとうとしながらブラック逮捕の知らせを待った。


(また変な噂が立ちそう……)


ショックが抜けきらないロンを心配するハーマイオニーの手を握りながらヒナノはぼんやり考えた。

ブラックに合言葉を知らせたのは誰だとマクゴナガル先生が叫んだとき、何人かがヒナノの顔を見ていた。

ネビルが手を上げたことですぐに視線は逸れたが、誰も名乗り出なかったらヒナノが犯人にされそうな空気だった。


結局このときもブラックは捕まらず、次の日からどこもかしこも警戒が厳しくなった。

そしてヒナノの予想は当たり、一時期収まっていた怪文書がまた届くようになった。



『部屋に入ってきたとき、ブラックはどんな様子だったの?』



落ち着いてきた頃にロンに尋ねると、ロンは嬉々としてそのときの様子を語った。

けが人が出なかったのが不思議なくらい緊迫した状況だった。



「ヒナノ、あんまり聞きまわってるとまた疑われるわよ」

『いいのいいの、どうせ来るんだから聞きたいことは聞いておかないと――と、噂をすれば』



音もなく下りて来たふくろうがヒナノの目の前に黒い封筒を落としていく。

毎回違うふくろうだと気づいたのはジニーだ。

よく見れば封筒も色が同じというだけで形も違ければ字も違う。

いろんな人がおもしろ半分に送っているに違いないと結論付けるまでそう時間はかからず、4月の半ばを過ぎる頃には封も切らずに燃やす作業に戻っていた。



『また来た……っわ!』



いつも通り封筒をろうそくにかざしたヒナノは次の瞬間、真っ暗闇の中にいた。

何か特殊な魔法薬を染み込ませてあったらしい。

ヒナノの近くにいたグリフィンドール生もみんな煤だらけになってしまった。



「――新たにブラックを侵入させたにもかかわらずウィーズリーに主役を持っていかれ悔しかったのであろう、わざわざ人の多い時間帯に届くよう自作自演するとは恐れ入る」



様子を見にやってきたスネイプは心配するでもなくネチネチと嫌味を言い、大顰蹙をかった。



「ああさよう……これに殺傷能力はまるでない。ただ爆発するだけの代物でむしろ悪戯によく使われる。1年生でも――ネビル・ロングボトムでもない限り――作れるだろう」

『それじゃスネイプ先生なら目をつぶっていても作れますね』

「ちょっとヒナノ」

『残骸を見たわけでもないのに特定できるなんて素晴らしいです。まるで先生が送ったみたい』



ハーマイオニーの焦った声がしたが、ヒナノは構わず続けた。

ネビルを引き合いに出して一緒に笑いものにしたのも腹が立ったし、真っ黒な格好をしているスネイプは煤まみれの視界の中に埋もれ、先生に向かって話しているという感覚が薄れていた。



「我輩は魔法薬学の教授だ薬自体を見ずともその効果や被害状況を見るだけでも察しはつく。――グリフィンドール5点減点。教師に対する侮辱と懐疑の罰だ」


(馬鹿にしたのも疑ったのもそっちが先じゃない!)



納得がいかずヒナノは立ち上がったが、咎めるようにマクゴナガルに名前を呼ばれ、鼻息荒く座りなおす。


たくさんの顔がヒナノを見ていた。

ネビルやハーマイオニーを始めとする「スネイプにたてつくなんて!」という顔と、ロンやジニーを始めとする「よくやった!」という顔の2種類にわかれている。


煤を拭き取りサッパリしたところで、ヒナノは重要なことに気づいた。

運の悪いことに、午後の授業は学期最後の魔法薬学の授業だったのだ。




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