比翼の風見鶏

□好みの問題
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「イッチ年生!イッチ年生はこっちだ!」



停車と共に、懐かしいハグリッドの声が聞こえてきた。

雨に霞む狭いプラットホームの端で、ランタンの光が左右に大きく揺れている。

モジャモジャの髭の隙間から漏れる息は白く、ホームに降り立った生徒たちも移動しながら腕をさすった。


(雨でもボートなんだ……)


吸魂鬼の洗礼に続いてこれとは、今年の1年生はついてない。

ヒナノは緊張した面持ちの1年生を見送り、ジニー、ネビルと一緒に馬車を待つ列に並んだ。



「吸魂鬼が学校を警備するって本当かな?」

「本当よ。パパがそう言ってたもの」

『1年中こんな天気だったらどうしよう』

「まさか校内を見回ったりなんかしないよね?さっきみたいに部屋に入ってきたりしたら――」



コンパートメントに吸魂鬼が侵入してきたときの様子を思い出し、ネビルはブルッと震えた。

氷のように冷たい雨で、チョコレートの効果はとっくに切れていた。



『でも先生が乗り合わせてくれててほんとよかったね』

「うんうん。僕たちだけだったら、魂を吸われてたかもしれないもの」

「大げさよネビル」

「でも実際ハリーは気絶しちゃったし――」

「ポッターが気絶だって?」



場違いに明るい声が聞こえたので振り返ると、ドラコが嬉々として立っていた。

みんなフードを目深に被っていたため、声を聞くまで後ろにいることに気づかなかった。

ネビルはしまったという顔で「そんなこと言ってない」と弁解したが、無駄だった。

ドラコはわざとらしく「ポッターが気絶したっていうのは本当かい?」と大きな声で言いなおした。

コンパートメントにいたスリザリン生たちがわざとらしく悲鳴をあげたり口に手を当てたりして面白がった。



『何よ。ドラコだって怖がってたじゃない』



イライラが収まっていなかったヒナノは、同じくらい大きな声で言い返した。

雨の中、雷に照らされて青白い顔が浮かび上がった。



「やっぱりウィーズリーどもに吹き込まれたんだな?あの、血を裏切るクズどもが……」

『そうやってすぐに他人を悪く言うのどうかと思うわ』

「あいつらが先に僕の悪口をヒナノに言ったんだろ!」

『だから言ってないってば!フレッドは廊下に取り残されてた私を助けてくれたの!ドラコは私がいたことにすら気づかなかったみたいだけどっ』

「なっ……違う!あれはただ――く、暗くて何も見えなかっただけだ!」



周囲の注目が集まっていることに気づいたドラコは途中で言葉を区切った。

苦虫を噛み潰したような顔をし、並んでいる生徒を押しのけて先頭の馬車に乗り込んでいく。

非難の声は、クラッブとゴイルがこぶしを撫でることで押さえつけた。



『何よあれ!ごめんくらい言ったらどうなの!?』

「マルフォイと何かあったの?」

『別に!ただ自分のことを棚に上げて他人を馬鹿にしてるのが腹立つだけ!』

「いつものことじゃないか」

『そんなことないわ!ドラコにだっていいところが――って、なんで私がドラコをフォローしてるの?』

「さ、さあ……」

「それこそいつものことよ」



「いつもの喧嘩でしょ」と言うジニーと「そうなの?」と怯えるネビルと一緒にヒナノは馬車に乗り込んだ。

ドアが閉まると、馬車は独りでに走り出した。

でこぼこ道をガタゴト走る間、ヒナノはずっと眉間に皺を寄せて窓の外を眺めていた。




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