比翼の風見鶏
□ふくろう便と3つの写真
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ここ数週間の間で、日本の夏は地獄だとヒナノは何度も思った。
ホグワーツでは暑いと言いながらも長袖で過ごしていたくらいだったから、毎日のように今年一番の暑さを更新している日本に比べたら天と地ほども差がある。
本当なら部屋を締め切ってクーラーをガンガンにかけたいところなのだが、窓からの来客を待っているためそうもいかない。
ヒナノは扇風機の前に座ってアイスを食べて気を紛らわせた。
『あーつーいー』
アイスと一緒に自分も溶けてしまうんじゃないかと思い始めた頃、入道雲が立ち並ぶ空から黒い影が近づいてきた。
豆粒のようだった影はだんだん大きくなり、やがて形がはっきりしだす。
間違いなくフクロウだ。
翼を広げてすべるようにヒナノの元へ向かってくる。
ヒナノは急いで残りのアイスを平らげ、待ちに待った来客を部屋へ招き入れた。
『こっちこっち――あれ?』
1羽だと思ったフクロウは2羽だった。
お互いを支えあうように飛んできて、手紙を届けるとそのままヘロヘロと力なく床に落ちた。
『大変!お母さん!お水、お水!』
ヒナノは窓を閉めてクーラーをつけ、キッチンへ走った。
「あらまあ、夜に来ればいいのに無茶するわね。ヒナノが待ってるのがわかったのかしら?」
『えっ、私のせい!?……夜まで家にいてもらってもいい?』
「いいわよ。返事を持たせたいって言っておきなさい」
『はーい』
水と母の呪文でフクロウが元気になってから、ヒナノは投げ出したままになっていた封筒を拾った。
1通は待ちに待ったホグワーツからの手紙で、真っ白い封筒に校章がおされていた。
――Ms.カザマツリ
新学期は9月1日に始まることをお知らせします。
ホグワーツ特急はキングズ・クロス駅、9と3/4番戦から11時に出発します。
来学期の教科書リストを同封いたします。
副校長 ミネルバ・マクゴナガル――
いつも黒板で見ていたマクゴナガル先生のきれいな字をヒナノは何度も読み返した。
新学期、ホグワーツ特急、キングズ・クロス駅、教科書――1つ1つの単語が、ヒナノをあのすばらしい時間へといざなった。
ホグワーツで過ごした1年間で、ヒナノはたくさんの新しいものと出会った。
魔法はもちろん、友達にゴースト、それから身の凍るような事件にも遭遇した。
あのわくわくドキドキする1年がまた始まると考えただけで心が弾む。
しばらく白い封筒を持ってぴょんぴょんと跳ねていたヒナノは、母親に指摘されてもう1通手紙があったことを思い出した。
茶色の封筒に入ったそれは、友人からのものだった。
――ヒナノ、久しぶり!
元気にしてる?
あたしたち今どこにいると思う?
実はエジプトにいるの!
パパがくじを当てて、みんなでビルに会いに来たの(詳しくは記事に書いてあるわ)――
(記事?)
封筒の中を確かめると新聞の切り抜きが入っていた。
ジニーの父であるアーサー・ウィーズリー氏が今年の“日刊預言者新聞・ガリオンくじ”というもののグランプリを当てたことが書かれている。
横に載っているインタビュー記事で、“ビル”というのがウィーズリー家の長男だということがわかった。
エジプトのグリンゴッツに勤めていて、ジニーたちはそこで1ヶ月を過ごすことになったらしい。
エジプトの民族衣装を着た赤毛の家族が誌面からヒナノに手を振っている。