比翼の風見鶏
□[番外編]長い長い午後の短い天下
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――生徒たちは直ちに寮へお戻りなさい。先生方は至急2階の廊下へお集まりください。
校内放送を終えたマクゴナガルは「あなたたちもですよ」と言ってドラコとヒナノを見た。
「授業をさぼっていた件に関しては特別に不問にします。不安でしょうがあとは私たちに任せてお戻りなさい」
『先生、でも私っ』
「1人で帰るのが怖いですか?それなら少しお待ちなさい。寮生に説明をしに行くついでに私が送ります」
「ちょっと待ってください先生、僕をお忘れじゃないでしょうね?」
「ええもちろんですよMr.マルフォイ。あなたのことはスネイプ先生に頼みましょう」
「え?僕をスネイプ先生にっておっしゃいました?聞き間違えですよね?“僕にヒナノを任せる”ってことですよね?」
厳格なマクゴナガル先生に対して、ドラコはふんぞり返って鼻を鳴らした。
“代々純血主義でスリザリン生ばかりを輩出してきたマルフォイ家の人間がスリザリンの継承者を恐れるわけがないでしょう”という心の声が透けて見える。
マクゴナガルは細い眉の端をピクリと動かし何か注意したそうな顔をしたが、2人を見比べると軽く頷いただけで次の行動へ移った。
「いくぞヒナノ」
ドラコはヒナノの腕を引っ張り、一度はその場を離れた。
しかしグリフィンドール塔には向かわなかった。
走ってくる足音から隠れるために横道に逸れ、黒い影が過ぎ去ってからUターンした。
『あれ、帰らないの?』
「どうせ大人しく帰る気なんかないんだろ」
『一緒に、ジニーを探してっく、れるの?』
「ほら、やっぱりな。1人で抜け出す気だったんじゃないか」
『……』
「そんなことさせると思うか?僕を頼れって言っただろう」
『……ドラコ?』
「早くしろ。聞き逃すぞ」
ドラコは泣きながらポカンとするという器用なことをこなすヒナノを連れ、血文字の残された廊下に戻った。
松明が作る薄明かりの中、全員の注目が壁に行っている隙に遠い物陰に身を潜める。
近すぎず遠すぎず、松明の明りを受けない場所があったのは幸いだった。
(学校の閉鎖だって?)
ぴったりくっつくヒナノの体温を背に感じながら前方の様子を窺おうと顔を出したとき、スネイプがこちらを向いた。
あわやと思ったが、闇に溶け込む目はドラコを通り越してその先にいる人物を捕らえた。
ギルデロイ・ロックハートだ。
今しがたセットしたばかりのような髪形をして、ドラコたちに気づくこともなく目の前を通り過ぎて行く。
「ついウトウトしまして。何の話で?」
(こいつ、引率を放り出して授業準備に行ったかと思ったらそのまま昼寝してたのか)
授業のときと変わらないヘラヘラした顔を浮かべていることは用意に想像がついた。
他の先生方から白い目が向けられている。
中には恨んでいるとしか思えないようなものまであった。
「女子生徒が怪物に拉致された。いよいよあなたの出番ですぞ」
「私の?で出番?」
スネイプの刺々しい声にロックハートがたじろぐのがわかった。
それでもすっとぼけようとするロックハートに、次々と追い討ちがかかる。
体よく怪物退治を任されたロックハートはわかりやすく動揺していた。
「よ、よろしい。あー……では部屋に戻って、し――仕度します」
ぎこちない笑みを残し、ロックハートが去っていく。
あいつで大丈夫かという感想を持ったのはドラコだけではなかった。
ヒナノも、フィルチまでも同じような顔をしている。
その一方で、マクゴナガルを始めとする先生方はすっきりした表情でロックハートを見送っていた。
「これで厄介払いができました」と聞こえた気がした。
***