Letters
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両面鏡はとても便利な道具だった。
あまり出回っていないものらしいが、そこはさすがというべきか、店長は頼んだ次の日には入手してくれた。
ただ、本に載っていたものとは少々異なるものだった。
鏡が掲げられたとき、リーベはしばらく声を失った。
本来手鏡であるはずのそれは、どう見ても肖像画サイズの掛け鏡だった。
しかも目玉模様のゴテゴテした装飾がたっぷりと施されている。
こんなものがカウンター脇にあったのでは気が散って仕方がない。
(防犯の役割は十分すぎるほど果たしてるけど……)
見た目に文句を言える立場ではないリーベは思いの丈を手紙にぶつけた。
両面鏡で見せれば早かったが、写真で代用する。
有事のみと念を押されたし、何より手紙でのやりとりが好きだった。
何度でも読み返せるうえ、2種類の手紙の差異も楽しめる。
それに、どうせ話すなら直接会って話したい。
そんなわけで、両面鏡はあの日以降使われることがなかった。
――リーベへ
確認した。なんだあの鏡は。趣味が悪いどころか気味が悪い。闇の魔術の品ですらもう少しまともであろう。
一度呪いがかかっていないか調べたほうがいいんじゃないか?必要があれば次に行ったときに確認してやる。
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話は変わるが、じきクリスマス休暇だ。脱狼薬の調合を見に来るなら都合をつける。
あれからいくつかの記事を読んでみたところ、記述が合致しない点がいくつか見受けられた。確認しながらの作業で時間がかかると思われるのでそのつもりでいるように。
材料も少し多めに欲しい。追加であと2セット準備出来るだろうか。もちろんトリカブト以外は君持ちで。
間に合いそうになければ不要だ。その代わり成功する保証はない。
追伸:
私が送ったものについては以前言ったとおりだ。送り返す必要はない。
セブルス.S――
返事を読んだリーベは、歓声をあげて掛け鏡に向かって呼びかけた。
『店長!スネイプ教授が実験用にトリカブトを追加で買ってくださるそうです!』
「でかした!」
『それで、量が少し足りないんですが、今週中に採って来れますか?』
「任せときな。必要なのは根だけだろう?頼まれていたものと一緒に週末に持ってくよ」
『ありがとうございます!』
(ほんと両面鏡って便利ね……)
何がいくつ必要なのかすぐに伝えられるため、受注が可能かどうかその場で確認できるし、受け渡しまでの時間が格段に減る。
先輩のメモ忘れも気にしなくていい。
不気味な鏡は、本来の目的とは違った使われ方で活躍していた。
(他の材料か……いつ採りに行こうかな)
2人とも連絡が鏡で済むことをいいことに、以前にも増して店を開けるようになっていた。
おまけに店番を頼もうとするとすぐにカバーをしてしまう。
おかげでリーベが自由に外出できる日はめっきり減った。
『スネイプさんが真面目な人でよかった』
もう1通、同時に届いた新学期分の注文書に目を通しながらリーベは呟いた。
数ヶ月先のものまで細かく書かれているため計画が立てやすい。
(店長が帰ってくる日でいいかな。荷物の量がすごいことになりそうだけど……あと次の旅行で採ってきてほしいものもまとめておかなきゃ)
テキパキと手帳に予定を書き込み、屋上へ向かう。
雪がチラつく冬空の下、有毒食虫蔓は順調に背丈を伸ばしている。
このままいけば年末には蔓が動くようになりそうだ。
『適材適所って大事よね』
リーベには店長や先輩のような機動力や臨機応変さはないが、計画的に動いたり地味な作業をコツコツとやり続けたりすることは得意だ。
向いていると言ってくれた人を思い浮かべ、ビニールハウス内の温度調整のために小さなストーブを焚く。
オレンジ色の暖かい光を受け、棘だらけの暗褐色の茎がわずかに動いた気がした。
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