比翼の風見鶏

□果たされることのない約束
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授業が始まる前から今日の授業が最悪なものになるだろうと想像がついた。

スネイプは見るからに不機嫌そうな顔で教室に入ってきて、今学期の授業がいかに悲惨だったかを語り、休暇中になんとかしろと言って宿題を大量に出した。

おまけに調合中ずっとヒナノの周囲をうろうろし、ちょっとでも雑な作業をしようものならここぞとばかりに嫌みを言ってくる。



「カザマツリ、君の目にはそれが全て5センチに見えるのかね?我輩にはどれも違う長さに見えるがその中に1つでも自信を持って5センチだと呼べるものがあるのか?」

(だいたい同じならいいじゃない!)

「君に繊細さを求めるのは無駄なようだなカザマツリ、あれだけ派手な爆発で皆の気を引いたのだ湯気の色など取るに足らないものなのだろう」

(関係ないじゃん!)

「魔法薬学は高尚で精妙な学問だ一部の者は目立つための道具と見ているようだが――」



スネイプはたっぷり間を取り、全員が注目していることを確認するように教室をジロリと見回した。



「覚えておくことだ遊びのつもりが大惨事を招き退学あるいはアズカバン行きになる可能性もあるのだと」


低い声が地下牢教室の隅々まで行き渡った。

クスクス笑っていたスリザリン生も黙り込み、グツグツ鍋の煮える音だけが残る。



「さて、そのことを身を持って示してくれたMs.カザマツリに敬意を表し実験台になっていただこう。目立つのが趣味のようですからな」


(結局それ!?)


牽制してくれたのかと感心したのもつかの間、スネイプは生徒をヒナノの机に集めて膨れ薬を手に塗らせ、「大して変わらんな」と鼻で笑った。

もらったぺしゃんこ薬を塗りながら、今こそジニーにもらった呪いの人形の出番だとヒナノは思った。







悪いことが続いていたが、いいこともあった。

翌日の防衛術のクラスでルーピン先生が「この調子なら試験前にボガートの授業にとりくめそうだ」と発表したのだ。



「みんな休暇中に自分の怖いものと、それをどんな滑稽なものに変えるか考えておくように」



先生はお祭り騒ぎの生徒達に宿題を伝え、最後にヒナノを呼び止めた。



「この前は悪かったね。突き放すような言い方をしてしまった」

『全然!私も先生の気持ちも考えずにすみませんでした』

「いいんだ。あれから彼とは仲良くやってる?」

『……全然』

「はは、やっぱり悪いことをしたようだ」



『だって』とドラコの悪行の数々を言いつけるヒナノの愚痴を先生は目を細めて聞いていたが、教室から生徒がいなくなると「これから話すことを絶対に他言しないと誓ってほしい」と神妙な面持ちで告げた。



「シリウスは、何も変わっていないかもしれない」

『どういう意味ですか?』

「まだはっきりは言えない。でもまた信じてもいいかもしれないと思えるだけの新事実が発覚した。ああ、教えることはできないよ。それからこの件は私に任せてほしい。私が決着をつけなければいけないことなんだ」



ルーピン先生の言葉にはやっぱり重みがあった。

怒鳴っているわけでもなければ怖い顔をしているわけでもないのに、『はい』と言うしかない空気ができている。

ハリーが以前「ルーピン先生は怒らせると怖い」と言っていたが、なんとなくわかった。


(でも……お母さんに教えるくらいならいいよね?)


身内だし、日本語で書けば他の人に読まれる心配もないし……と考えたのがよくなかった。

午後の空き時間に向かったふくろう小屋で、ヒナノは黒い封筒を持ったスリザリンの1年生と鉢合わせた。
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