偽りの夜想曲

□08.トロールの襲撃
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スネイプの追及が迫っているとも知らず、ノアは鍋や秤を準備しながらスケジュールの再考をしていた。


(1日にあれもこれもっていうのは無茶だったかな)


城を探検して、クィレルのところへ行って、調合の練習をして、夕食を食べて、図書館に行って本を借りて、談話室でみんなの話を聞きながら宿題をして――今のところ“充実した”で済んでいる生活も、授業が難しくなったら負担になってしまうかもしれない。


(うーん、でもどれも削りたくないなあ……)


こんなときに欲しくなるのが逆転時計だ。

しかしどんなに望んでも、ノアが手にできる可能性があるのは早くて3年生だ。

逆に言えば、3年生からはやれることがいっきに増える。

たくさんの授業を受けて、遊んで、疲れたら戻って寝ればいい。

そのためには授業の予習復習が第一――と考えがまとまりつつあったところで、バァンと勢いよく教室のドアが開いた。

ノアの手からねずみの尻尾が、そして頭からスケジュール案が抜け落ちた。



『す、スネイプ先生?どうされました……?』

「遅刻の原因をお聞かせ願おう」

『つ、つい話に夢中になっちゃって、時計を見るのを忘れていました……す、すみません』



ノアが言い訳する間もスネイプはカツカツと歩みを進め、ノアの正面で机に手をつくと覗きこむようにノアを睨みつけた。



「夢中に。なるほど。ネビル・ロングボトムに使用した魔法もあやつに習ったのか?ん?それで大衆の前で試してみろと唆されたわけか。実に単純で考えなしだ愚かしいほどに」

『練習に付き合ってくれたのはクィレル先生ですけど、使ったのは私の判断です。それで使っちゃいけなかったと思い直して、途中でやめて……あんな結果に』

「それを唆されたと言うのだ馬鹿者が」

『どうしてクィレル先生に教えてもらっちゃダメなんですか?』



理由はわかっていたが、ノアはあえて尋ねた。

スネイプが答えるはずがないと思ったからだ。

しかしスネイプは事も無げに「あやつは教師としての資質に欠けるところがある」と言ってのけた。



『し、資質というと?どもっていて聞き取りにくいですけど、そのことに目をつぶれば教え方はわかりやすくて上手ですよ』

「教師のほうから個人的な指導を提案してくるなど何か裏があるとは思わんのかね」

『クィレル先生も私がボッチだっていう噂を聞いて心配してくれたんです。それで――』

「実力でねじ伏せればいい、自分が教えてやると――そう持ちかけてきたわけですな?」




ニヤリと引き上げられた口角を見て、ノアは自分が誘導尋問にかかったことを悟った。

クィレルの方からの提案であったことを認めてはいけなかったのだ。

あくまで自分が質問をしに行ってい体を取るべきだった。

しかしもう遅い。

スネイプは「提案されたのは闇の魔術かね?」と正確に見抜いてきた。



「君はスリザリン生だツクヨミ、協力を仰ぐのであればまず寮監である我輩に当たってしかるべきであろう。あの教師のところに通うのはやめたまえ」

『そ、それってスネイプ先生が魔法も教えてくれるってことですか?』

「君がそれを望むのであれば――可能な範囲で」



まさかの返答だった。

こんなにもグリフィンドール生とスリザリン生で待遇が違うとは正直驚きだ。

ドラコがシーカーになったからってフィールドの使用許可を出しちゃうだけのことはある。



「しかし君は既にある程度の信頼を得ているように思える君が他のウスノロとは違うと――皆認めているであろう」

『でも先生、私は皆をあっと言わせたくて勉強しているわけじゃないんです』

「ほう?」

『調合も、箒に乗るのも、魔法植物を育てるのも、杖を振るのも、全部楽しいからです。魔法界のことは何でも知りたいですし、魔女じゃないとできないことは全部やりたいんです。だってホグワーツですよ?世界一の魔法魔術学校ですよ?やらなきゃ損……で、ですよね……?』



思わず力説してしまったノアは、眉間に深く刻まれた皺を見て小さくなった。


「言い分はわかった」

『すみませ……え?』

「よかろう。本を紹介してやる。読んで理解するところまでは自分でやりたまえ。杖を振る段階でうまくいかなければ見てやる」

『ほ……?』



ポカンとしているだけのノアに向かい、「不満か」と低い声が発せられる。

ここで不満だと言えば――もちろん不満なんてないが――雷が落ちることは間違いないだろう。



『いえ……ただちょっと意外だったというか感動したというかますますファンになったというか……』

「ファン?」

『あっ、すみません今のなしで。……どうしてそこまで目をかけてくれるんですか?』

「グレンジャーに首席の座を譲るのは鼻持ちならん」

『ああ、そういうことですか』




吐き捨てられた無茶苦茶な理由に妙に納得した。

クィレルに近寄らせないのも、単に心配だということではなく寮監としてのプライドも関わっていると考えると腑に落ちる。

なんて言ったら怒られるのは目に見えているので、ノアは両手でガッツポーズを作って『ご協力します』と宣言した。



『任せてください。打倒グリフィンドール。寮杯獲得を目指しましょう!』



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