偽りの夜想曲
□07.真夜中の決闘
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医務室に連れて行かれたノアは案の定怒られた。
なぜ杖を持っていたのか。
なぜ途中でやめたのか。
痛いところをズバズバと聞かれ、ごまかすためにヒッポグリフにやられたときのドラコのように『痛いよー死んじゃうよー』とやらなければならなかった。
恥ずかしいったらありゃしない。
(何かするにしても目立たないようこっそりやらないとダメね)
呆れたマダム・フーチが説教をあきらめて出ていってから、ノアは1人反省会を行った。
不都合が出たら後で逆転時計を使って戻ればいいやと思っての行動だったが、あんなに目立ってしまっては修正も難しい。
それにスネイプ先生に気に入られるような大人しく礼儀正しい生徒を目指しているわけだから、医務室のお世話になるような派手な行動はなるべく避けたい。
(うーん、やっぱりあの本をちゃんと読まないとダメかなあ)
ルームメイトと打ち解けたのはよかったのだが、仲良くなったらなったで、隠れて本が読みづらくなるという問題があった。
「――ほぅら。僕の言ったとおり、ピンピンしてる」
授業が終わり、スリザリンの1年生がゾロゾロと入ってきた。
心配そうにしているダフネたちとは対照的に、ドラコはやけに上機嫌だ。
「ポッターのやつ、退学だろうな」
『何かあったの?』
「阿呆ネビルを挑発したら、馬鹿ポッターがかかってね。勝手に箒に乗っているところマクゴナガルに見つかって連れて行かれたよ」
エビでタイを釣る状況になったのが面白くて仕方ないらしく、ドラコは怒鳴るマクゴナガル先生のマネまでした。
クラッブやゴイルがゲラゲラ笑ったが、ザビニは鼻を鳴らすに留まっている。
ドラコはそれを見逃さなかった。
「まさかポッターの肩を持つんじゃないだろうね?」
「いや。ポッターが箒に乗れたのが意外だっただけだ。あのまま地面に激突するかと思ったのに……あいつ本当に初乗りか?」
「フン、あんなのたいしたことないね」
水を差されたドラコは面白くなさそうに集団を見渡し、他に異を唱えるやつがいないか確かめた。
そして後方にひょろりとした少年がいることに気づいて意外そうにした。
「お前もいたのか、ノット。ついてくるなんて珍しいな」
「ついてきたわけじゃない」
ノットは小さな声で言い、本を持ってノアの前まで来た。
「これ……借りてた本。あと、できれば少し話したいんだけど……」
「へえ、本なんか貸し借りしてたのか。内気なお前にしては珍しく積極的じゃないか」
「あーら、ノットってばノアに気があるの?」
「すぐそういうことにしたがる……女子ってそれしか脳がないわけ?」
冷やかすパンジーに心外だと言わんばかりに眉根を寄せてみせ、ノットはベッド脇のスツールに座って本を開いた。
いつものことなのかパンジーは怯むことなくダフネやミリセントとクスクス笑い続け、クラッブとゴイルもつられるようにニヤニヤしている。
ザビニは少し気になるようだったが、肩をすくめたドラコが「帰るぞ」と言うと後に続いて医務室を出て行った。
『ノットは一緒に戻らなくていいの?』
「かまわない。それよりこの魔法理念について君の意見が聞きたい」
『魔法の威力と精神力の関連について……理念というか基本じゃない?』
「そう。基本だ。この基本に則ると、さっきネビル・ロングボトムが落ちたのは、君があいつを助けようとする意思がなくなったからということになる」
(す、するどい)
「それなのに君は自分が下敷きになってまで助けた。これは基本理念に矛盾する」
『あれは偶然――』
「つまり呪文を失敗したわけではないってことだよね?」
『え、えっと……それってそんな真面目な顔で聞くほど重要なことなの……?』
「僕は君を買っているから」
ノットは平然と言った。
相変わらず目は合わせようとしないが、照れる様子もしゃべるのをやめる気配もまったくない。
(これで内気扱いされるイギリス人っていったい……)
本をパラパラめくりながら「入学式の日から気になって見ていた」とまで言われ、これはパンジーが冷やかしたくなるのもわかると他人事のように思う。
「へりくだれば早かったのに、君はそうしなかった」
『へりくだるって……ドラコとかに?』
「ああ。だいたいのスリザリン生はそうやって実力者におもねることで居場所を得る。でも君は実力でその立場を勝ち取った。僕は敬意を払うよ」
『そんな大げさな』
「それじゃ好感が持てる、くらいにしておこうか」
『ど、どうも……です』
なんだかんだでノットも純血主義のスリザリン生。
言葉の端々にプライドの高さが垣間見える。
だからドラコの取り巻きの1人になってキャーキャー言うのも楽しそうだと思ってしまったことは黙っておいた。
『それにしてもおのぼりさんのボッチに興味を持つなんて、ノットって変わり者って言われない?』
「ないな。マルフォイに一匹狼と言われたことならあるけど――ああ先生」
医務室に寮監が入ってきたことに気づき、ノットが席を立った。