比翼の風見鶏
□ふくろう便と3つの写真
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せっかくだからカラーで映るマグルのカメラがいい、確かデジカメがあったはずだ、花火もあったはずだ……といつの間にか大事になり、写真を撮り終える頃にはとっぷり日が暮れていた。
『ジニーの分はこれでよしっと』
パーシーのフクロウに返事を託したヒナノは、ホグワーツから来たフクロウに持たせるための手紙にとりかかった。
相手にはドラコを選んだ。
マクゴナガル先生宛に書くわけにはいかないし、コリンには先週エアメールを送ったばかりだ。
ルーナやハーマイオニー、ハリーという手もあったが、パッと思い浮かんだのがあのプラチナブロンドだった。
「やだマルフォイってあのマルフォイ家?」
『そう。あの純血主義の』
「ドラコ……って、男の子の名前よね?純血主義のボーイフレンドができたの?」
『まさか。すごく嫌味なやつだし、命令ばっかりしてくるおせっかいよ。いいのは髪質くらい』
「それなのに手紙を書くの?」
『えっと……一応お世話になったから……』
お父さんには内緒にしておいてと言おうとしたが遅かった。
フクロウにえさをやっていたはずの父親はドアのところに立っていて、笑顔を貼りつかせてヒナノを見ていた。
「そのドラコ・マルフォイってのはどんな子なんだい?」
『え、えっと……1つ上の学年の子で……あ!面倒見がいいお兄ちゃんみたいな人?私以外にも2人子分がいて――』
「ヒナノを子分にだって?」
『言葉の綾よ!』
ヒナノの父はとても優秀な魔法使いなのだが、娘を溺愛しすぎていることが玉に瑕だった。
「あなたがイギリスに行ってからは3日3晩泣いていたのよ」という母の話も冗談として笑い飛ばせないくらいには子煩悩で、近所の子に明るい目の色をからかわれたときなんかは“蚊に足の裏を刺される呪い”やら“タンスの角に小指をぶつける呪い”やらを1週間かけ続けて母親にしかられていた。
「でも嫌味で命令してくるんだろう?」
『まあ……言い方は結構乱暴かな……』
「純血主義って言っていたけど、いじめられてるわけじゃないだろうね?」
『違う違う!ほら、向こうの人たちって紳士で親切じゃない?それがちょっと過剰でずれてるだけよ』
夏の間中ドラコが虫の羽音に悩まされても困るので、ヒナノは急いでフォローに入った。
あんまり褒められるエピソードがないことに自分自身驚きながらも、寮について教えてくれたとか、かんざしを見つけてくれたとか、いじわるになる前にあった出来事をあれこれ引っ張り出してなんとかしのいだ。
「しかし何も手紙まで書かなくても……ジニーって子だけで十分だろう」
『だってフクロウ待たせてるし、マクゴナガル先生宛に書くわけにはいかないし』
「他に女の子の友達は?」
『いるけど、もう写真に名前書いちゃったもん』
「……写真?」
『ドラコが去年からかってきたから、送ってやろうと思って』
サイン入り写真がどうこうとしつこく言ってきたときのことをヒナノは忘れたわけではない。
やられっぱなしは癪だから、いつかそのネタでやり返すチャンスを窺っていた。
とはいえ、やっぱり自分の写真を送るのは恥ずかしい。
ヒナノは写真いっぱいにマジックででかでかと名前を書いて浴衣姿の自分を隠した。
それはそれで「かわいいヒナノが台無しだ」と言い始めるものだから、親馬鹿には困ったものだ。
母親は母親で純血主義だけは絶対にダメだと熱くなり、一夜にしてドラコ・マルフォイはカザマツリ家で1番有名なホグワーツ生になった。
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