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□[後日談]欠陥英雄
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(やっぱり恋人には見えないかあ……)


レナの知らないうちに、リーマスはイギリス中の魔法使いが知る英傑の一角になっていた。

人並みに魔法が使えるようになった程度では、釣り合いっこなかった。

レナは途中でトイレに寄り、できる限り身なりを整えてからエントランスホールに出た。



『お待たせ』



精一杯大人っぽい表情と動作でリーマスの元に向かったが、努力は一瞬にして露と消えた。

「おつかれさま」と言ったリーマスが、おもむろに額にキスをしてきたことで、レナの平常心はどこかに吹っ飛んだ。



『んなっ!』



額を手で押さえて数歩後ずさり、左右を見る。

見られてる、と思ったら、顔から火が出そうなほど熱くなった。



「どうしたの?忘れ物?」

『違っ、い、いま、キキキ、キス――っ』

「うん。ダメだったかな?」

『だって、ここ、会社っ』

「……ああ、知られたくないか。ごめん」



リーマスが眉を下げた。

きっと違うことを考えているんだろうなと思った。

案の定リーマスは「私のような者が恋人では……」と小さな声で自虐を始めた。



『違うから。もしそうだったら、最初に帰してるから』

「そう?それじゃ、周囲の目を気にしなくてもいいよね」



コロッと一瞬で笑顔に戻ったリーマスが、レナを引き寄せて再びキスをする。


(やられた!)


レナはまんまとリーマスの作戦にはまってしまったことを悟った。

おっとりした笑顔を湛えているというのに、レナをつかんでいる手の力は馬鹿みたいに強い。



「そんなに見られたくないの?」

『だって恥ずかしいじゃん!からかわれるじゃん!』

「え?嫌なの?レナが?」

『からかわれるのが好きだなんて言った覚えないからね!?』

「そうだっけ?……でもそうだな、やめておこうか。レナで遊んでいいのは私だけだ」

『遊ぶって言った!?』


(だからわざわざ目立つ場所にいたの!?)


権力を持ったからってやりたいほうだいになって――と思ったが、思い返してみれば、昔からリーマスはこうだった。

レナが三本の箒でバイトをしていたときも、誕生日プレゼントだとかいうわけのわからない理由で店にやってきて、レナが焦っているのを見て楽しんで帰っていったのだ。

それを考えたら、エントランスホールで留まっていてくれてよかったと思うべきなのかもしれない。



「レナ、聞いてる?」

『あ、ごめん、何?』

「今日、レナの家に行ってもいい?」

『いいけど、ご飯の材料がないから途中で買わないと』

「あるものでいいよ」

『せっかくならおいしいもの作りたいじゃん』

「レナが作るものならなんでもおいしいよ」

『そんなこと言ってもさすがにパンとスープだけじゃ――』


(――って、まだここ会社だった!)


『と、とりあえず外に出よ!』



赤いんだか青いんだかわからない顔でリーマスの手を引いて通りに出る。

「手と足が一緒に出てるよ」と笑われた。




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