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□憂鬱な狼
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リーマスは朝日が差し込む廊下を歩いて校長室を目指した。

こんなに惨めな気持ちになったのは久しぶりだ。

あんなに気をつけてきたというのに、ピーターの名前を地図で見つけたことで、他のことは何も考えられなくなってしまった。

そして、そのちょっとした不注意が、取り返しのつかない事態を招いた。


東向きの窓がない場所では、薄暗い廊下を朝焼けと同じ色の松明が行く手を照らしている。

炎の動きに合わせて揺らめく影が、リーマスの心を表しているようだった。


ガーゴイル像の前で立ち止まり、心を落ち着かせてから合言葉を告げる。

塔のてっぺんにあり窓が多いダンブルドアの部屋は、眩しいくらいに明るかった。



「無事でなによりじゃ」



ダンブルドアはやわらかい表情でリーマスを見つめた。

何が起こったのか、ダンブルドアは既に知っているようだった。



「……申し訳ありません」

「不運な事故じゃ。君が謝る必要はない。ただ、1つだけ確認させてほしい」

「ご心配には及びません。誰も咬んでいませんし、何も食べていません」



昨夜のことを思い出しながら、リーマスは再度謝った。

申し訳ないと思ったのは、脱狼薬を飲み忘れて変身してしまったことだけではない。

ピーターの名前を見つけたとき、追いかける前にダンブルドアに連絡を入れるべきだったと今なら思う。

シリウスやピーターがアニメーガスであることも、黙っているべきではなかったのだ。

ハリーに地図でピーターの名前を見たと聞いたときにダンブルドアに話していれば、こんなことにはならなかったかもしれないと後悔がリーマスを襲う。


ダンブルドアの信頼を裏切っていたことへの後ろめたさや、ピーターを自分の手で捕まえたいという虚栄心が招いた結果だ。

あの状況で全員が無事だったのは奇跡としか言いようがない。

シリウスが危険を顧みずに止めてくれなかったら自分は子ども達を咬んでいただろうし、下手をすれば命を奪っていたかもしれない。

そう考えるとシリウスへの感謝の気持ちとともに、自分のようなものが教員になることの恐ろしさが改めて認識させられた。



「シリウスはどうなりましたか……?」

「捕らえられ、塔にとじこめられた。大臣がやってきて吸魂鬼のキスを施すはずじゃった」

「そんな!」



それまで俯きながら話をしていたリーマスは、弾かれたように顔を上げた。



「シリウスはやっていません!ピーターが秘密の守人だったんです。ジェームズ達を殺したのも、大勢のマグルを巻き込んだのも、全てあいつです!」

「話は既にハリー達から聞いておる。セブルスとはだいぶ意見が食い違っているがの」

「彼は途中から来て、すぐに気絶してしまったんです。肝心な部分は何も聞いていません」



ダンブルドアがわかってくれていたことは嬉しかった。

しかし、恐ろしくもあった。

わかっているのに、シリウスを処刑するために大臣がやってくるとダンブルドアは言うのだ。



「大臣はセブルスの言い分を信じたのですか?」

「仕方のないことじゃ」

「そんな……、彼は頭に血が上っている。冷静に事柄を見て判断できる状態じゃありません」

「わかっておる。しかし証明するのは難しいんじゃ。圧倒的に分が悪い」

「分が悪いからと無実の者に吸魂鬼のキスを施そうとしているのを黙って見過ごすおつもりですか!?」

「“施すはずじゃった”と言ったはずじゃが?」

「それでは、その……助かった、ということですか?」

「もちろんじゃ」



ウィンクするダンブルドアを見て、リーマスは脱力した。

こんなときにウィンクをするなんて不謹慎だと思ったが、シリウスが無事ならそれでいい。


ダンブルドアが語り始めた、ハリーのちょっとした大冒険の説明を聞きながら、いまは亡き親友へと想いを馳せる。

立派に育った息子が、濡れ衣を着せられた親友を救ったことを知ったら、ジェームズはさぞかし喜ぶことだろう。



「君がハリーにパトローナスを教えておったおかげじゃよ、リーマス」

「ハリーからの申し出です。ディメンターに立ち向かおうとしたのも、追い払うことができたのも、すべてハリーの功績です」



そう言いつつも、自分が教えた守護霊の呪文が遠まわしにシリウスやハリーの命を救ったと考えると、ほんの少しだが、罪悪感が和らいだ。

それからハリーとの特別授業やジェームズに似て勇敢なところなど、ハリーについての話が弾んだ。




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