大きな栗の木の下で

□[後日談]可愛い子には旅をさせよ
2ページ/3ページ

ターニャを連れて庭に出たセブルスは、栗の木の下に座った。

制服を着なくなったセブルスは、同じポーズをとっていても、学生の時よりもずっと格好良くて色っぽく見える。

まだ成長しきっていない幹にもたれかかり、手紙を見るように俯いているため、前髪で顔が見えなかった。


なんとなく本を読んでいたセブルスを思いだし、私は隣には座らずに正面にしゃがんで前髪を掻き分けてみた。

あのときと同じで、眉間に皺がよっていた。



『え?ホグワーツへ就職?』



隣に座れと私の腕を引いたセブルスは、長い息を吐いてから、私に手紙を渡してきた。

中には“防衛術は駄目だけど、魔法薬学なら歓迎するよ”みたいな内容が書かれていた。



『え?え?セブルスが先生になれるの?ホグワーツの?』

「ああ……魔法薬学ならな」



すごい。すごすぎる。

頭がいいとは思っていたけど、まさか先生になれるほどだったなんて。



『お、おめでとう!』

「……」



あれ。

なんであまり嬉しそうじゃないんだろう。

第一希望が闇の魔術に対する防衛術だったからかな?

魔法薬学のほうが知的で格好良いと思うけどな。



「黙っていてすまない」

『ううん、いいよ。それよりすごいじゃない!もっと喜びなよ!』



三大魔法学校の1つとされるホグワーツの教師だなんて、なろうと思ってなれるものではない。

コネで入れるような魔法省なんかより、よっぽどすごい職業だ。

もし――ありえないけど――私がホグワーツで教えられることになったら、近所中に自慢して回って、花火まで上げちゃうと思う。



「ホグワーツは、全寮制だから……」



ボソボソと、申し訳なさそうにセブルスが言った。

私はそこでようやく、どうしてセブルスが躊躇しているのかを理解した。



『家に帰って来れなくなるってこと?』

「ああ……休暇の時に、少し戻れるくらいだ」



セブルスはターニャの小さな手を人差し指でいじりながら言った。

きゅっと指を握られて、眉間の皺が深くなる。



『寂しい?』

「当たり前だろう。マロンは寂しくないのか」

『私にはターニャがいるもん』

「……」

『うそうそ!ごめん!寂しいって!』



でも、寂しくても夫の栄転は明るく送り出すものが妻ってものじゃない。

夫の帰りを家で待つのが妻のお仕事なのだ。

そう言ったらセブルスはなぜか顔を赤くした。



「恥ずかしいことを平気な顔して言うな。これだからお嬢様は……」



照れ隠しなのか何なのか、眉間を揉んでいたセブルスは、ふいにキスをしてきた。



「休暇には1日でも長く家にいられるようにする」

『無理しなくていいよ?』

「僕がそうしたいからそうするんだ」

『うん、わかった。待っ――』



待ってる、と言い切る前に、またキスをされる。

何も言わずにキスをするほうが恥ずかしいと思う。

それなのにセブルスは満足気な顔をして「そういうことだから」と言いながらターニャを連れて家の中へ戻っていった。


何が“そういうこと”なんだろう。




次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ