大きな栗の木の下で

□[番外編]火中の栗をひろう
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「ちょっといいかな?」



呼び止められたマロンが振り返ると、そこにはリーマス・ルーピンが立っていた。



「手伝ってほしいことがあるんだ」

『え?……やだ、放して!』



ルーピンは笑顔で「大丈夫、何もしないよ」と繰り返しながらマロンの手を引いた。

振りほどこうと腕を振り回しても、ルーピンの力にはかなわない。

眉を下げて困ったような顔をしながら、ルーピンがぐいぐいと私を引っぱっていく。



「あんまり暴れると腕とれちゃうよ?」

『じゃあ放してよ!』

「もうすぐだから。ほら、ここだよ」



連れてこられた場所は見たこともない部屋で、中にはグリフィンドールの生徒が3人いた。

マロンの腕は解放され、全身をイスに縛りつけられた。



「僕達の隠れ家なんだ」

『眼鏡くんにブラック兄に……ということは、悪戯仕掛人の?』

「半分正解。半分はずれ。僕の名前は眼鏡くんじゃなくてジェームズ・ポッターさ」

『知ってるわ。どうでもいいから帰してよ』

「君を帰すのは悪戯が完了してからだ――ちょっと失礼」

『痛っ』



ポッターは濁った液体が入ったカップを持ってきた。

そこに、たった今私から抜いた髪の毛を入れる。

途端にゴポゴポと音を立てて、液体はミルクティーのような色になった。



『何それ……』

「ポリジュース薬だ。すごいだろ?」



液体をポッターが飲むと、たちまちマロンに姿を変えた。

くるっとターンをしてみせるもう1人の私を見て、ブラックが「成功だな」とルーピンと手を叩いている。



『なんの為にこんなことするのよ』

「そりゃ悪戯に決まってんだろ。俺らを誰だと思ってる」

「あとはまあ、普段スネイプを怪我させてばっかりいるから、たまにはいい夢を見させてあげようと思ってね」

「敵に塩を送るってやつだよ。僕ら優しいだろう?」

『……セブルスに何かする気!?』

「まあ見てろって」



ブラック兄は鏡のようなものを私の前に持ってきた。

そこには、だぼだぼしたグリフィンドールの制服を着たマロン――つまり、マロンに変身したジェームズ・ポッターが映っていた。

杖を一振りすると、一瞬にしてスリザリンカラーの女子用制服に変わった。

服を脱いで着替えられなかっただけましだが、ポッターが私の体をしてスカートをはいていると考えると、はっきり言って気持ちが悪い。



「そう嫌そうな目で見ないでよ。僕だって、これからスニベルスに愛想を振りまきに行かなきゃいけないかと思うとうんざりなんだからさ」

「賭けに負けたのが運のツキだ」

「わかってるよパッドフット。やるからには真剣にやるさ」

『なんでこんなことするのよ』

「うーん……そうだな、僕らスネイプと仲良くしたいんだ」

「だけどあいつはあんな感じじゃん?」

「マロンの格好になれば仲良くしてもらえるだろうっつう作戦だ」



意味ありげな目で笑いあいながら、ポッター達は事の成り行きを説明した。

まあ仲良くしようとしているなら協力してあげてもいいかな。

なんてちょっと気を許してしまった私は、逃れようと身をよじるのをやめた。


「じゃあ行ってくる」とポッターが手を振って部屋を出て行く。

ブラック兄とルーピンはこの部屋に残るようで、マロンの後ろに立ってスクリーンを覗き込んだ。

ルーピンの説明によると、ポッターをハエ型カメラが撮影してこちらに映像をリアルタイムで送っているらしい。

ということは、ポッターが化けた私の周りをハエがブンブンしているというわけだ。


最悪。

せめて蝶にしてほしかった。



***
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