くろす☆はーと

□第九話。
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「今はわっからないことばーかりだーけどぉー!信じーるこぉの道をすーすむだーけさー!」





某カラオケ店の一室に氷狼の歌声が響く。
今日は聖タチバナ野球部レギュラーのみで大きめの場所を借りきった。
ほぼ全員が歌って楽しむ中、遥は一人だけ部屋の隅で何かを真剣に見ている。





「はーるかっ!
エロビでも見てんの?」
「………」


みずきが茶化しながら背中に抱き着いても、遥はジッとして動かない。
みずきの視線は遥の手にあるDVDプレーヤーの画面に映し出されている物へ。





「……どこの試合?」
「……騒がしい」





ハァ、と溜め息を吐いて遥はDVDプレーヤーを止める。
みずきが見たのは、どこかの地区予選らしき試合。
みずきがムッとした表情に変わると、遥はチッと小さく舌打ちをする。





「……南北海道の地区予選決勝。
狛大篷駒井(コマダイトマコマイ)対空閑舘(クガタチ)高校…」
「……やっぱり狛篷が勝ったの?」




今や全国屈指の強豪となっ狛大篷駒井。
特に楽天へと入団した豪腕投手の田中は有名であろうか。
だからみずきも、狛篷の勝利を聞いた。




「……8対0で空閑舘の勝ちだ」
「……え?」
「……先発の差だな、恐らくは」




空閑舘のエース――加我 健太(カガ ケンタ)は、最速157km/hの直球とチェンジアップのコンビネーションが際立つ左腕だ。
それだけでも凄いのに、更にカーブ、シュート、高速スライダーという多彩な変化球を操るとなれば高校最強投手というのも頷ける。
だが、みずきは知らなかった。





「…エースは凄いね、」
「……何言ってやがる。
加我は出てねぇ。
空閑舘は三番手で完封だとよ」
「……ウソ!?」



慌ててまたDVDプレーヤーを開け、空閑舘のピッチャーをよく見てみる。
確かに背番号は『17』で、エースはおろか二番手の『10』細田ですら無い。




「……このピッチャーって…?」
「…浦田克哉。
直球は140が限界だが、80km/hの決め球パームが厄介なピッチャーだ。
それに縦に落ちるスライダーとシュートは直球と同じ速度らしいな」



確かにパームの落差に付いていけないバットが次々空を切る。
縦に落ちるスライダーとシュートに空を切り、ボールがキャッチャーの上に打ち上がる。
結局狛篷はどん詰まりのポテンヒット一本だけの安打だけで終わった。





「……遥、このピッチャー知ってるの?」
「……当たり前だ。
浦田は…空閑舘の元エースだ」
「……!?」
「…つまり、加我が猛練習でエースを奪い取った。
どの学校も今や実力至上主義だからな」





だが遥には余裕しか見えない。
それなりの自信が有り、それに伴う実力が有るからか。






「……打てるの?」
「……さあな」




は、と鼻で笑う。
やはり頼れる打者は違う。
みずきの顔も少し堅かったのに少しだけ微笑へと変わる。
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