くろす☆はーと

□第七話
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夏季甲子園大会――それは、球児たちの憧れにして、目標。
聖地と謳われ、その参加権利を得る為に各都道府県では何万ともある高等学校の野球部が争い、涙と汗を流し、そして辿り着く――








ここ、聖タチバナ学園の属する西東京地区もまた、激戦が日々行われ始めていた。
準々決勝まで勝ち上がった聖タチバナの今日の相手は、地区内の強豪である恐怖高校。
何故か対戦相手は力を出し切れずに敗北すると言われる、名前通りに恐ろしい高校だ。










キンッ!
澄んだ快音が雲ひとつ無い青空に響いた直後、ライトスタンドに白球が突き刺さる。
未だ聞こえるサイレンをBGMに、恐怖高校エースの酒本は呆然としていた。
それと同時に、目の前の相手に立ち向かった己の愚かさを感じ取った。









天才にはどうやら、ジンクスは関係無いらしい。
アンダースローから繰り出す酒本自慢のシンカーは初球からキャッチャーのミットに収まること無く、天才のバットに吸い込まれるように。
体勢が若干崩れていながらのその打撃は何をしても意味が無いと、悟ってしまった。
そして、どうやら不運は自分たちに移ったらしいということすらも。
続く二番の原には一球もストライクが入ること無く歩かせ、三番の六道には真ん中に抜けた失投をセンターオーバーのタイムリーにされ、更に送球が逸れたおかげで三塁まで進まれ、止めは四番の大京。




ガキン、と鈍い音だったにも関わらず、ホームランとなったのは変化しなかった決め球のシンカー。
指の引っ掛かりが悪かったのか、棒球をライトスタンドに詰まった当たりながら運ばれ、たった七球で四失点。
不甲斐ない投球、では無い。
全てが明らかな不運の塊だった。
特に地区内屈指の守備力を誇る恐怖高校からしたらとてつもない誤算の量だ。
エラーした選手も、エースも、今大会の注目選手だっただけに。




結局、そのあとも不運なエラーが重なった恐怖高校は五回で十二点の大差をつけられたコールド負けを喫することとなった。
恐怖高校野球部員の涙が染み込んだ市民球場は、また一つ歴史を刻む。
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