くろす☆はーと

□第六話
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遂に始まったかぶ高校との練習試合。
先攻は聖タチバナ、斬り込み隊長の遥は打席に入り素振りを二度行う。
そして構え、かぶ高校先発の管野(かんの)を鋭い眼光でギラリと睨み付ける。




「相手投手の管野は……130キロ後半のストレートにカーブ、スライダー、鋭く曲がるシュートが持ち味の右腕、だぞ」
「そうなん?
なら狙い目は?」
「……初球攻撃が望ましいな。
初球から決め球のシュートは投げない筈」



聖がノートを見ながら分析した結果を全員に伝えた直後、キィン!と、打球が一塁線ギリギリを襲う。
ライン上を飛ぶライナーにかぶ高校のファーストが飛び付くも、バチリと弾いて打球はファールゾーンを転々とする。




「…ファール!」


が、審判はよく見ていた。
際どい打球がファーストミットに当たる直前に、ファールゾーンに侵入していたことに。




「…………」



打席の遥は悔しがる素振りすら見せず、無表情のまま構えに入り、ジッと次の投球を待つ。
二球目は内角に来た、決め球シュート。
ボールゾーンから鋭く抉るシュートを遥は腕を畳みながら、バットを振り抜く。




再びキィン!と強烈な打球は、今度は三塁線を襲うも三塁手がグラフに溢すこと無く収めてドシャリと地面に落ちる。





「……アウトッ!」


審判の宣告を聞き、あっさりとベンチに引き返す遥。
ベンチではただ一人を除き、全員が「え?」と言いたげな表情だった。




「……先輩、そんなにキレるシュートだったのか?」
「……さあな」



聖の質問にどうでもいい、と言った態度で答えた遥はバットをガシャリ、と突っ込み、ヘルメットを指先でクルクル回しながらドッカリと一番端に座る。
その横にみずきが歩み寄ると不機嫌な表情に変わったが。





「……で、今の打席の真意は?」
「……何のこと、」
「三塁手と一塁手、どっちを狙うべきなのかを確かめたんじゃないの?」
「………」



みずきが真剣な眼差しで問い詰めると、ピクリと僅かに反応し、また無表情に戻る。
が、ククッと微笑してヘルメットをバットの一本に掛ける。
打席では聖がちょうど打ち上げ、ピッチャーのグラブにボールが収まったところだった。





「……お前も見るところは見てんだな。
そこは見直してやるよ、橘」
「……どうも」




未だに話についてこれないメンバーに、遥が「まだわかんねーのかよ」と毒を吐く。




「いいか、先ずあの一塁手に勢いある打球を打てばエラーの確率は高い。
さっきのライナーを処理出来ない辺り、ほぼ確実にだ。
逆に三塁手はエラーがほとんど無いと見るべきだな、恐らく守備の要の一人だ」


そう。つまり遥はわざと凡退したと言うことだ。
一番打者は先ず、相手ピッチャーに球を投げさせるのが仕事ではある、が。
帝王実業で一年から斬り込み隊長として名を馳せて来た遥の打撃力なら、余裕を持ってそんなパフォーマンスも出来る。
広角に打ち分け、ホームランを狙って打てる『安打の神様』にしか出来ないだろう。
実際に昨年夏の甲子園でも、球数を投げさせながら三塁手と一塁手の守備力を確かめるという芸当をやってのけたくらいだ。





ガキン!と言う鈍い当たりにグラウンドへ目を戻すと、三番の原が一塁へ弱々しいフライを打ち上げたところ。
当然ガッチリとキャッチされ、攻守交代となる。






「……崎田くん」
「……んだよ」
「……やっぱり、私が嫌い?」
「……分かりきったことを聞くな、阿呆が」


少し強めの語調で返し、去っていく遥の背中を見つめるみずき。
その目には哀愁だけが漂っていた。









「……本当に、忘れちゃったのかな……」







みずきの呟きは誰にも届かないまま、かぶ高校の攻撃に移る――!
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