くろす☆はーと

□第一話。
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高校野球の名門といえば?
日本で問えば、先ず名前が挙がる――それが、帝王実業。




少年は、ドアを軽くノックする。
部屋の中から返事が聞こえたのを合図に、小さくではあるが「失礼します」と言ってドアを開け、中に入る。
部屋の中に入って直ぐ見える机の上には“理事長”の文字。
少年は軽く頭を下げてから机に近寄り、手にしていた紙を手渡す。
理事長はふむ、と立派な顎髭を撫で、渡された紙に目を通すと、横目で少年を見やる。



「……これで君は自主退学になるが……本当に良いのかね?
……崎田くん」
「……はい。
父と母には迷惑を掛けたくないですし。
……我が儘言ってすいませんでした」

崎田と呼ばれた少年は、理事長に深々と頭を下げる。
品行方正、成績優秀ともなると、こうも違ってくるらしい。
今までに退学していった元生徒たちを思いだし、理事長がクスリと笑う。


「いや、構わないよ。
君みたいな優秀な生徒を失うのは、寂しい限りだけどね。
……聖タチバナでも頑張りなよ?
崎田くんならきっとやれるさ」
「……はい」



聖タチバナ。
その名前が出た瞬間、崎田の眉間に皺が寄る。
次の瞬間には消えていたが。




「……では」
「ああ……頑張りなさい」



再び深々と頭を下げ、崎田はドアを開ける。




「……失礼しました」



その言葉と共に閉まったドアを見、理事長は軽く溜め息を吐いた。
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