くろす☆はーと

□第二話。
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「……崎田遥。
外野手。よろしく」


簡潔に挨拶を済ませる。
別にこいつら相手にする話なんか無い。
10人ずつ2列に別れた部員が1人ずつ自己紹介を始める。




「……六道聖、だ。
ポジションはキャッチャー…だぞ」
「…………」



成る程。
六道聖と名乗った女は、揉み上げと髪の色が特徴なのだろう。
顔立ちは整っているかなんて、俺にはさっぱり分からない。
だけど、唐突に“大和撫子”の言葉が頭に浮かんだ。




「ワイは原啓太!
ポジションはセカンドや!」


さっきのチビ。
背が低い奴には俊足が多いが、その類いだろう。
その分、非力そうではある。




「……俺か!?」
「……知るか」


ボケッとしていたらしい短髪が、突然吼える。
正直喧しい。
いや、暑苦しそうな予感がする。





「俺は氷狼悠里(ひのかみゆうり)!
主将とエースを務めさせて貰っている!
……エースでごめんなさい……」
「(暑苦しいのに…何で最後ネガティブ?)」


エース……。
さっきの練習中、良いストレートを投げてたな、コイツ。
コントロールも悪くない。
……よくこんなとこに来たよな……。
そのまま、全員の自己紹介を名前以外聞き流す。
取り敢えずレギュラーの中で気になるのは、六道と氷狼だけ、か。




「……ね、どうだった?」
「……あ゙?
……何が」
「練習見てて!
このチームもなかなかやるっしょ?
まあ、帝王にはかなわ、」
「……低レベル」



辺りが静まり返る。
当然だろうな、こんなこと言われんのは多分初めてだろうし。



「…お遊び、野球ごっこ、夢見すぎ。
……これくらいだ」
「……ちょっと待てよ」



ズンズン、一人が近付いて来てキッと睨み付けてくる。
確か宇津だったか。



「……何だよ」
「……訂正しろ」
「は、俺はどうだったか聞かれたから答えただけだ」
「五月蝿い!」



ガッと胸ぐらを掴まれる。
どうでも良いが貧弱だな、コイツ。



「……分からせてやろうか?」
「……なに?」
「実力で分からせてやるよ。
お前、確かピッチャーだったな。
何なら抑えてみろよ、初対決の打者を。
まあ、データがある分、そっちに有利だがな」




は、と鼻で笑って挑発してみる。
別に殴られても良いさ、俺はコイツらに協力する気は全く無い。
「……ああ良いさ、ボクの方こそ分からせてやる……!」


そう吐き捨てると俺を軽く押して、ギラギラ怒りにたぎった目のままマウンドに向かう。



「……崎田く、」
「……黙ってろ、俺はお前が嫌いなんだ」



心配そうに話し掛けてくる橘みずきを突き放す。





「……卑怯なことをしなきゃ、活路を見出だせない奴がな」




背負っていたバットケースから一本取り出して、打席に向かった。
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