小説 

□幸せな時間
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いつもいつもいじめられてた俺は、いつしか人が嫌いになっていた。
人間の汚い気持ちばかり見てきただろうからか・・・・
親とでさえろくに話さない、そんな親も今はおらず俺はばあちゃんちに住んでいる。本当に誰とも進んで話しかけたことなんてなかった。
ばあちゃんも呆れてるみたいだ・・・そんな俺の通う学校の俺のクラスに転校生がやってきた。
すっごいぶすっとした顔で先生に連れられ教室に入ってきた。ガヤガヤと女子たちが陰口やらなんやらをいいはじめた。
「ねぇ。あの子感じ悪くない?」
「ぶっすーってしててかわいくないね。」
「なんかクラスの空気悪くなるよね…」
入ってきて早々の子にもそうやって悪口を言うのか。全く嫌味な奴らだな。
肩まで伸びたこげ茶色の髪に、何年も日にあたっていないような真っ白な肌。なかなかかわいい子だ。
相変わらずぶすっとした顔をしているが・・・
そんな顔していてもかわいい。笑顔なんてもっとかわいいんだろうな・・・
(俺は一体何を考えているのか…)
あんまりじろじろ見ていると周りから陰口を言われかねないので、手元の本に目を落としながらその子を見た。
「はい。水杜さん自己紹介をどうぞ。」
「はじめまして。水杜都子といいます。」
そっぽを向きながら自己紹介をした。先生もその態度にあきれてしまったようだ・・・
だがかわいい・・・っ声までかわいいよ・・・
その子が座る席はちょっと前に飛び降り自殺した奴の席だ。あんなかわいい子になんてことを・・・と思っていたが、本人はもうその席の住人となっていた。行動が早いなぁ。
まぁいいかとまた本を読みながらその子を何度も見る。うん、やっぱりかわいいww

そしてゲームのように俺と教科書を見せっこするなんてことはなく、お昼休みになった。
俺はいつもひとり寂しく屋上で好物のメロンパンをかじる。
やっぱりメロンパンは美味しい。いつも、朝同じところで同じメロンパンを買うからお店の人とは顔見知りになった。この学校に入る前からこの店はばあちゃんち来た時によく使ってたな。途中で俺はこの学校には転校してきたわけだけど・・・転校当初からっからここで一人でメロンパン食べてたっけ・・・

タッタッタッタッタッタッタッタッタ…
ガチャ・・・
階段をのぼる足音が聞こえたと思うと、あのかわいい転校生ちゃんが扉を開いて出てきた。
息を切らせている・・・やっぱりかわ(以下略)ぽかーんとして見つめていると突然俺にふらふらとぎこちない歩き方で駆け寄ってきた。するとその子は、僕のメロンパンを指さし、
「僕のお友達といっしょのぱん。めろんぱん?」
さっきとは違い明るく子どものように笑顔で言ってきた。俺の予想通り笑顔がかわ(以下略)
「お友達?」
「うん!ずっと前に一緒に遊んだの!その時にそれと同じお店のメロンパン、おなかすいてる僕にくれたの!」
「そうなんだ、でもなんでここに来たの?」
「みんなにね、君がどこにいるか聞いたらここだって言ってたから!みやこがんばってみんなに質問したの!」
「そうだったのか。お疲れ様!みやこちゃんは自分のことみやこっていうんだね。」
「うん!小っちゃい時からなんだ!んでねそのお友達はお引越ししちゃってね、離れ離れになっちゃったの・・・」
「そうなのか・・・それは残念だったね。」
なんだかこの子は話してて楽しいな・・・人と話して楽しいなんて思えるなんて初めてだ。自然に笑顔になれる。
小学校の楽しかった日々はもう記憶が薄れていてほとんど覚えていない。
僕に残るのはいじめられた辛い日々と、母親が死んだあの日だけだ。
「ねぇねぇ・・。」
「なんだい?」
「お名前教えて?」
「俺は史っていうんだ。」
「ふみくん…じゃあ君のことふーくんってよんでいい?」
なんだか懐かしいなぁ・・・いつの日か…呼ばれてたきがする・・・

(ふーくん!メロンパンおいしいね!ありがとう♪)

ん?前にもどこかで・・・・同じように呼ばれていた・・・・
「いい?」
「あ・・・あぁ・・・いいよ」
「ふーくん!ふーくん!やっぱりいいねww」
「なかなかいいあだ名だな。いい名前を付けてくれたお礼。ありがとっ」
そういって僕は都子ちゃんにメロンパンをちぎってあげた。
「やっぱりふーくんはかわってないね!昔と同じで・・・」
「え?」
・・・・・・・・

昔まだお母さんたちが生きてた頃、ここに一回家族で来たことがあった。
その時、空き地でボロボロの洋服を着たあざだらけの女の子を見つけた。
その子は泣いていて、ぼろぼろと涙をこぼしていた
僕はその子を慰めた。泣いているその子をほおっておくわけにはいかないと、
幼心に感じたからだ。
「大丈夫?」
「うん!すこしいたくて、悲しかっただけだから…」
「そっか!でもげんきになってくれてよかった!」
「うん!みやこ強い子元気な子!!!!」
「みやこちゃんっていうの?」
「うん!おにいちゃんは?」
「ぼくはふみっていうんだよ。」
「じゃあおにいちゃんのことふーくんってよんでいい?」
「いいよ!いいなまえだね!」
「そうかな?えへへ〜」
「じゃあいいお名前つけてくれたおれいね!」
そして僕は手に持っていたメロンパンをちぎってわたした・・・・・・・・・


じゃあ・・・この子はあの空き地であった女の子なのか?・・・
「みやこちゃん、俺のこと覚えてたの?」
「うん!!僕が忘れるわけないよ〜!」
「俺も今思い出したよ。あのときのみやこちゃんだったんだな・・・」
「今日はあの時のお返しに来たの。僕の心を救ってくれたお礼!!」
「え?」
「まだそのお礼はしてなかったの!だからね・・・はいっ!」

ポケットから都子ちゃんは何かを取り出して僕に突き出した。
「あげるっ!僕とお揃い!」

そしてそれを都子ちゃんが俺の首にかけてくれた。
するとそれはきれいなビー玉にひもが通っていて、ネックレスのようになっていた。
都子ちゃんは笑いながら自分のを見せてくれた。
「ね!おそろいでしょ!?」
「そうだね・・・それにとってもきれいだ。ありがとう」
「どういたしまして!」

なぜだかいつもよりも昼休みが長い気がする・・・
でも・・・待てよ。あの時の都子ちゃんは僕と一緒に車にはねられて、僕だけが生き残ったんじゃ・・・
「でも・・・あのときのみやこちゃんは・・・・」
「うん・・・そうだよ。僕はあの時・・・ふーくんの目の前でね。」
「じゃあどうして・・・・君が今いるんだ?」
「だってお礼してなかったから・・・
どうしても・・・どうしてもお礼したくて、また会いたくて・・」
何度も何度も神様に頼んだの・・・そうしたらね一時間だけ戻っていいよって。ちゃんとお礼してきなさいって。」
「じゃあ都子ちゃんとはもう会えないのかい?」
「うん・・・」
「そんな・・・」
「もっとふーくんとお話したかったな・・・」
「都子ちゃん・・・」
「教室にもどったらもう誰も僕のことは覚えてないよ。僕が一秒でもいた記憶なんて残らない。」
「俺も都子ちゃんをわすれてしまうのか?」
「僕のことは忘れないけど、この一時間のことはすべて忘れてしまう・・・でも小さいころの記憶に少し花が添えられて、それとそのネックレス!もらったことになるから!」
「でも!都子ちゃんはわざわざ会いに来てくれたんだろ?もっとたくさんそっちの話きかせてくれよ?せっかくまたあえたんだから・・・」
「でも・・・もうお別れなの・・・」
「いやだ・・・これから・・・もっともっと話したかったのに・・・」
「神様との約束なの。僕がわがまま言ったのに許してくれたの。僕だって、僕だってもっとここにいたいよ…みんなと学校に行って、君が、もう一人でメロンパン食べなくて済むように…隣で一緒にメロンパン食べたかった!
でも・・・もう行かなくちゃ。」
「じゃあこっちにずっといられるように、神様にお願いできないのか?」
「僕もそうしたいよ。でも…」
都子の目にだんだんと涙が浮かんできた。真っ白い肌に透明な暖かい筋が通る。
都子は涙を袖で拭いほころんだ笑顔を見せた。
「そのネックレスを見ていつでも思い出してよ!」
「あぁ・・・わかったよ。都子ちゃんも俺のこと忘れないでくれるよな?」
「うん!わすれない・・・絶対忘れない!」
「約束な・・・」
「うん!!!!!」

俺たちが指切りをすると、強い風が吹いた。あまりの強風に目をつむった。風が止み俺が目を開けると都子ちゃんはいなくなっていた。
俺はしばらく何もできなかった


・・・・・・・・・


しばらくすると俺を現実に連れ戻すようにチャイムが鳴った。
俺は急いで教室に戻った。
「おそいぞ!遅刻だ遅刻!!!」
「すいません。」
教室に入ると頭の中に空白ができたような感覚に襲われた。
そそくさとみんなの視線を感じながら自分の席に着く。
いつもどおりの変わらないつまらない教室。

すこし、いつもは感じなかったはずの重みを首に感じる。
少し違和感のある鎖骨あたりに目を落としてみると、少し青みかかった透明なビー玉の首飾りがぶら下がっていた。
その少しの重みが僕に小さな幸せを与えた気がする。

空白の時間を詰め込んだようにビー玉に映し出されるなつかしい記憶。
唯一の過去の楽しかった思い出がそこに。



すこし増えた思い出に幸せを感じる。
いつもとは違う幸せな午後。

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