小説 

□血濡れの空
1ページ/1ページ

時は1×7×年・イタリア。
ひっそりとした小さな町の上には、どこまでも続く青い大空が広がっていた。


町の一角にある家の庭に、洗濯物を干している小さな少年がいる。
その少年は大きな真っ白いシーツを引っ張り、
まっすぐに伸ばすと洗濯ばさみでシーツの端を留めた。
ふぅと息をつき、額の汗をぬぐう。
流石は夏だ。いくら湿気がないといえ、あの太陽の日差しが肌に刺さる。

「ママ〜!洗濯物干し終わりました!」
少年はそう大声で言いながら自分の家へと入っていく。
うっすらと甘い香りが鼻腔をくすぐる。
少年がキッチンに向かうと一人の女性が立っていた。
「ママ、おわたってば!」
少年が少し強く言うと、その女性は振り返った。
「あら、ありがとう」
そういいながらその少年の頭を撫でる。
わしゃわしゃと撫でまわさせるたびに、その少年の頭の髪の毛の房が揺れる。
そしてなで終わると、また前を向き。
「ねぇねぇ!これ!」
ジャーンと言う効果音とともに、ママと呼ばれたその女性はチョコレートケーキをその少年の前に突き出した。
先ほどから家の中に漂っていた甘いにおいはこれのものだったようだ。
少年は目を輝かせる。
「わぁ!おいしそぉ!!ママが焼いたの?」
「そうよ。結構うまく焼けてるでしょ?」
彼女は自慢げに言う。うんうんと少年は笑顔でうなずく。




ダイニングテーブルの上には、10等分された先ほどのケーキが置かれていた。
そのテーブルのわきに二人は腰掛、自分たちの皿に配当されたケーキを紅茶を啜りながら食べている。
「やっぱりママはお料理上手なんだね」
「これくらい作れて普通なのよ」
彼女は笑いながら、そして照れながら言った。
少年は先ほどからずっとニコニコしたまんまだ。
よほどチョコレートケーキがうれしかったのだろう。
「よし!お母さんはお仕事してくるね」
と少年に声をかけると彼女は立ち上がった。
「お仕事がんばってね!」
ありがとう。ケーキは好きなだけ食べていいわよと笑顔で言い残すと自分の部屋へと入っていった。
少年は自分の両親が、何の仕事をしているかなんて知りもしない。
ケーキの半分を平らげ、食器を流しに持っていく。
机の上に遊んでくるねと置手紙を残して、少年は外へ出かけた。

今日は休日だけあってこの町も少し活気にあふれている。
此処の町では毎週日曜日に市場が開かれるのだ。
こんな辺鄙なところだと、たった一つの市場があるだけでも町の様子は活気づくものなのだ。
すれ違う人々は大荷物を抱えてニコニコと笑っている。
中には酒樽を持ち上げて帰っている人もいる。
毎週日曜日少年はこの市場に来ては変わったチョコレートを買って帰るのだった。
市場の人込みを避けて市場の端まで進んでいくと、店はいつものところにあった。

「おじさーん!」
「おぉ、僕!いつも来てくれてありがとうな」
小さな出店にはたくさんの世界のお菓子が並んでいる。その中から中年のひげを生やした男性が返事をした。
「今日のおすすめはね、これかな?」
そういって差し出したのは赤い箱で包まれた薄いチョコレートの箱だ。
その箱の表面にはイタリア語ではない文字で何かが書かれていた。
「おじさん、これは?」
その箱を見て少年は首をかしげた。
「これはね日本という国のものでね。なかなか入ってこないから貴重なんだ」
「そうなんだ。いくらするの?僕あんまり高いものは買えないよ?」
輝かせた目を少ししょんぼりさせて言った。その少年は男性に小さな手に広げて、数枚のコインを見せた。
「足りるかな?」
「うん、大丈夫さ。ちょうどだね」
そういわれると少年はまた笑顔に戻り、男性にコインを渡した。
それと交換に少年は赤い箱を受け取る。まじまじとその青く大きい目でその箱を見つめる。
「そこにはねメイジミルクチョコレートってかいてあるんだよ」
「おじさん物知り!」
「こっちは貿易商売だからね、いろんな国を回っているうちにいろんな国の言葉がいつの間にかしゃべれるようになってたんだ」
男性は自慢げに言う。
「おじさんすごいんだね。僕もいつかはしゃべれるようになりたいな!」
そうかそうかといいながら少年の頭を撫でる。
少年はハッと気が付いたように、顔を上げる。
「僕もう帰らないと!ママに怒られちゃう…」
「お、そうか」
「うん!またねおじさん!」
「ちょっと待って坊や!」
その子は振り向き返る。
「なんですか?」
「これ、僕にあげるよ」
そう差し出したのはとても綺麗に包装された箱にだった。
「なにこれ、おじさん?」
「それはね、日本でたまたま貰ったものなんだ。日本からのお土産というところかな」
ありがとう!と少年は喜んだ。
「いえいえ。いつも御ひいきにしてもらってるからね」
と男性が笑って言うと、少年はじゃあねと手を振りながら走って行った。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ