小説 

□〜Quindi, se avete〜 V
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「…!」

なんだか寒気がした気がした。
全身が戦慄くようなそんな悪寒。
骸の気配を感じたときに感じた嫌な寒気。

綱吉は自分の部屋を見渡してみる。
いつものベッドと机があるだけで、自分以外は誰もいない。

ボンゴレの超直感が何かを訴えている。

これは…いったいなんなんだ?
先ほどから続く悪寒はさらに増すばかりで、だんだんと不安に駆られていく。

―助けて下さい

!!!
骸だ。骸の声がした。
弱弱しいその声に、いつもの骸の高慢さは感じられない。
骸にきっと何かがあったんだ。そうだ違いない。
超直感と自分の意識がリンクした。

綱吉は何も持たず急いで家を飛び出した。





骸の意識はまだ戻らず、床に倒れたままだ。
時々うめき声が聞こえてくるだけ、ヒューヒューと弱弱しく息を吐いている。

その時、骸は夢を見ていた。
痛みに浮かされた肉体から切り離された精神が、夢の中をさまよっている。

真っ暗で何もない、無限の空間。

(ここは…一体?)

骸はひたすらに前に進んでみる。
当てもなく、ただひたすらに進んでいく。
ただただまっすぐ。



ハァハァ…
(骸、待ってろよ。今行くからな)

家から一回も止まらずに走り続けてきた綱吉の息は上がりきって、心臓もはちきれんばかりに動きを速めている。

タッタッタッタ…

ようやく黒曜ヘルシーセンターについた。門を潜り、綱吉は敷地内へと入っていった。
いつ来ても怪しい雰囲気は漂っている。
割れたガラスと埃と瓦礫を踏み越えて、骸のいる部屋に急ぐ。

ギシギシと音をたてて抜けそうな床を超え、
階段を駆け上がりようやく骸の部屋に辿り着いた。部屋の主に声をかける前に綱吉は部屋のドアを開けていた。

「骸!居るか?!」

綱吉は叫ぶ。だが返事はない。
シンと静まり返った大部屋に小さく呼吸音が聞こえる。
綱吉はその音がするほうへと足先を向けた。




いつまで歩いても暗闇が途切れることはなかった。夢も終わる気配を見せない。
もちろん先ほどのような苦しみは無いものの、当てもなく歩き続けていれば精神だけであろうと疲弊する。

骸はふと足を止めて自分の足に目を落としてみる。相変わらず細く弱弱しい足がそこにある。
15年も時を駆けてきた足はあまりにも細かった。骸は少し複雑な顔をする。

―ねぇ、どこに行くの?

不意に聞こえた声に骸は前を向き直る。
「誰だ…」
静かに、そして威圧感のある声で呻く。
すると闇の向こうから一人の幼い少年が歩いてきた。

それは第一回目の生を受けて間もないころの幼い骸だった。
「な…なぜお前がここにいるのです?
僕は此処にあるというのに!」
「おしえな〜い」
幼い骸は無邪気に笑いながら答えた。
今は歪みきった骸にもこんなに無邪気に笑った時期があったのだ。
両目もキラキラと青に輝かせて。
その顔を見ると骸は歯を食いしばった。

「ねぇ。出口を探しているの?迷っているみたいだけど…」
骸は相変わらず眉間にしわを寄せている。
「そうですけど。」
「連れてってあげようか?」
「あなたは出口を知っているんですか?」
「!!…知ってるから連れてってあげるって言ってるのに!」
幼い骸はぷんぷんといいながら腕を組む。
骸はそれを無表情で見つめる。
(はぁ、ここにいても埒が明かない。
それにもう疲れてしまいましたし…
しょうがありませんね。この子に任せますか。)
骸は短くため息をつく。
「わかりました。さぁ連れて行ってください」

その言葉を待っていたかのように、もう一人の骸はその幼い手を差し出した。



「骸!」

そこには床に這いつくばるようにして倒れた骸の姿があった。
駆け寄りその体を抱き寄せる。
思ったよりもずっと軽く、簡単に持ち上がってしまった。
頭を膝に乗せ、顔にかかった」伸びた前髪を払うと、骸の苦痛にゆがんだ顔が露わになった。
右目の周りに掻き毟った跡がある。

「ねぇ骸しっかりしてよ。どうしたんだよ…ねぇ…骸…」

泣きながら骸に語りかける。何度も何度も名前を呼ぶ。




骸は差し出されたその幼いその手を取る。

「さぁ早く連れて行ってくださ・・・っ!!」

いきなりその幼い手からは想像できないほどの力で手をつかまれた

「クフフ…こんなに簡単に引っかかるなんて思ってなかった。やっぱり弱ってるみたいだね」
「貴様…」
骸が睨みつけたその幼い顔は冷たく、先ほどの無邪気な笑顔を作り出したものと思えない。

そして先ほどまで左目と対になって青く輝いていた右目は赤く染まり、そこには「一」の漢字が刻まれていた。
「くっ・・・」
力は強く振り払うことができない。
もう少し早く気が付いていれば…
「さぁ、このまま地獄に連れて行ってあげますよ。それか此処を永遠に彷徨いますか?」
あざ笑うように骸に語りかけながらどんどん前に骸を引っ張っていく。



綱吉は未だに目覚めない骸の顔を見つめる。
心なしかさきほどよりも辛そうに見えた。

「骸…」

そう呟きながら骸の蚯蚓腫れだらけになってしまった骸の右目を撫で・・・た・・・

その時、綱吉の意識がすべて骸の意識の中に吸い込まれた。

「う・・・・あぁぁぁぁぁ!」

強烈な頭痛が一瞬綱吉を襲った。痛みに目瞑り、再び目を開けるとそこは…



「離せ!僕は地獄なんてとうに見た」

幼い骸は手をつないだまま立ち止まり、振り向いて骸の顔を見た。
そしてニタァと薄気味の悪い笑みを浮かべた。
骸の手をつかんでいる手の対の手にはあの三叉槍が握られている。

「ま…まさか」
「クフフフ…」
「そう、そのまさか。お前の体は僕がもらうよ。そしてお前は永遠に此処をさまようがいいさ。


僕の代わりにね」


骸は三叉槍を骸に目掛けて振り上げた。

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