小説 

□〜Quindi, se avete〜 U
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少年は空を見ていた。此処黒曜ヘルシーセンターの屋上に寝そべり。
最近あの沢田綱吉のことばかり考えている。
「綱吉…君」

そうつぶやき、届くはずのない空に手を伸ばし雲をつかむ真似をする。
あの大空に僕の手は届かない。ならばあの大空にも手は届かないのであろうか。
地上の大空はあんなにも近くにいるのに、僕の手の届くところにいるというのに。

僕のこんな汚れた手じゃ触れられませんよね。血と悪意のこびり付いた手じゃ君を穢してしまう。
君が僕を浄化してくれたとしてもまだ、僕は君に触れられない。
君から僕に救いの手を差し伸べてくれることなんてあるのでしょうか?

僕から伸ばすことなどできない。絶対に…



骸は部屋に戻るといつものように赤いソファーにもたれかかった。

彼のいる部屋には音がなかった。
時々吹いてくる隙間風がヒュウヒュウと音をたてて過ぎていく。



この間はここにあの沢田綱吉がいた。

骸は昨日のあの温かい雰囲気を思い出しては虚無感に苛まれていた。
いつもは隣にないあの温かみ。そして笑い声。

うれしい気持ちとは反面にもどかしい気持ちも感じていた。
慣れない温かみを受けたいと願っている。
忘れたはずの温かみを取り戻したいと…


当たり前と言ったら当たり前かもしれない。
なぜなら彼は…


「綱吉君…」

綱吉が座っていた場所を眺めながら呟く。
その声は静かな部屋に反芻するだけだ。

虚しく、何もないソファーを見つめる。
その眼は何かを探しているように、求めているようにその空間に向けられている。






そして骸は彼が座っていた場所に手を置いてみる。
何時ものソファーの感触が手に伝わってくる。
何も変わらない、いつもの感触。

骸はため息をつく。


―ズキンッ!!

その時、右目に激痛が走った。


「ぐっ…」

ソファーに置いていた手を右目に当てる。
今までに感じたことのない激しい痛み。

全身の神経が右目に集中してしまっていて、もう座っていることもままならない。
強いめまいが骸を襲う。
骸はソファーからずり落ちた。

床に打ち付けられた痛みに気にしている場合じゃない。
骸は右目を強く抑えて床にひれ伏し痛みに悶えている。

更に痛みが増してくる。
この痛みの増殖を止める術を骸は知らかった。

息がだんだん苦しくなる。
意識が、右目に食い荒らされていく。


「た…助けてください…綱吉君…」

弱弱しくはなった言葉は誰にも聞かれることなく部屋に消えていく。


―プツンと、骸の意識が途切れた。

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