小説 

□〜Quindi, se avete〜
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僕はどうして君と出会ってしまったのであろうか。
僕は君に逢わなければ愛も人の温かみも知らずに済んだ。
冷たい心のまま世界を壊すことができたのに。
嗚呼、僕にはもうこの世を壊す意味も、マフィアを殲滅させる意味もない。

ただ君だけがいてくれれば…




〜Quindi, se avete〜

〜一章〜
ここは日本。イタリアにいたころとは違い刺激が少ない。
正直平和という言葉と無縁な生活をおくってきた身としては慣れないものである。
イタリアでは暇つぶしに人を殺しに行く、なんてよくあったものだがやっぱり日本では訳が違う。
黒曜中は黒曜町の悪の巣窟なんて言われているが、彼には物足りないどころか相手をする価値さえない。
青髪の少年六道骸はため息をつくと、先ほど買ってきたチョコレートケーキに手を伸ばした。
甘い味が口の中に広がる。日本に来てからの楽しみといえばスイーツや菓子を食べることだけであった。
イタリアではなかなか菓子など買える状況ではなくせいぜい殲滅のために乗り込んだマフィアのパーティーで焼菓子をつまむ程度であった。
小さいころからチョコレートは好きで最近では板チョコというものをスーパーで買ってきてはよく食べている。
ケーキの残りを口に抛るとココアを一口含み、彼は座っていたお気に入りの赤いソファーに寝転んだ。甘いにおいとカビと埃のにおいが鼻腔をくすぐる。
目をつぶると暗闇が彼の視界を支配した。光など一切ない。まるで昔の自分を見ているみたいだ。
暗い闇は僕にずっと前からまとわりついている。光が差し込んだことなど一度も…いえ。
一度だけ有った。

あの時此処、黒曜ヘルシーセンターでボンゴレ10代目沢田綱吉と戦ったときだ。死ぬ気のオーラで浄化されたときに僕は一筋の光を見たんだ…
確かにこの目で、心で。闇をすべて拭い去るくらいの太陽のように底抜けに明るい一筋の光を。温かみを。
僕の心には少しの甘えができてしまったんだ。またあの光が僕を助けてくれるのではないか、暗闇のこの場所から。
僕に手を差し伸べてくれるんじゃないか。この冷たくなった僕の躯を温めてくれるんじゃないか。
このまま目を瞑っていればまた光が見えるのではないか…
あぁ…愚かな。希望なんてとうの昔に捨てたじゃないか…何を今更。

彼は自分に言い聞かせながら瞼を開けようとした、その時入口の方から小さな足音が聞こえた。


「誰です?僕の縄張りに入ってこようなんていい度胸だ!」
少年は目を見開き勢いよく立ち上がると手に三叉槍を構えた。

「ヒィッ!!!」
ドタンと倒れる音がした。
この声には聞き覚えがあった。あのか弱いボンゴレ10代目、沢田綱吉。
三叉槍を引っ込めるとカツカツとローファーの踵を鳴らしながら入口に向かった。
入口のところで沢田綱吉が腰を抜かして倒れている。
「君はこんなところで何をしているのです?見ていると本当に哀れですよ。」
「骸っ!いきなり臨戦態勢になるなよ!びっくりすんだろ」
「人の家に挨拶もなしに勝手に上り込んでくる君の方がよっぽど無礼者だと思いますけどね」
「だってここなんか怖いんだもん!暗いし埃っぽいし崩れそうだし汚いし…」
「ここで生活してる人間に向かって言う言葉ですか…それが」
「あっ…ごめん」
「確かに暗くて埃っぽくて崩れそうで汚いですよ。でも隠れ家には丁度いい」
「ま、まぁな」
「ところでいつまでそうしているつもりです?」
綱吉は焦って立ち上がるとパンパンと焦って自分のズボンに着いた埃を払った。
「骸ってさ甘いもん好きだよね?」
「はぁ?」
「甘いもの好きだよな!?」
「はい。好きですけど…それが何か?」
「いやあ。俺のお母さんがチョコレートケーキ焼いたから友達に食べさせて来いって」
「じゃあなんで僕なんですか?君にはお・友・達が他にもたくさんいるでしょう?」
「ほ…ほらさ!最近あってなかったし。元気にやってるかなって思ってさ」
「僕は元気です、でも君の相手をしていて疲れました、気分も悪くなりました、帰ってください」
「そんなこと言うなよ!まったく相変わらずだよな…」

骸はそそくさと部屋に戻ろうとした。綱吉がそれを追いかける。
「なんですか?ケーキならそこに置いておきなさい。」
「いいい…一緒に食べようよ」
「なっ…」
骸は目をぱちくりさせると勝手にしなさいと呻きドアを開け放しにしたまま部屋に入った。
「おっじゃましまーす!」
綱吉は部屋に入るないなや中央に置いてあった赤いソファーに飛び乗った。ぼふんという音とともに埃が宙う。
ゲホッゲホッ!そのソファーの反対側に座っていた骸が盛大に埃を吸ったらしい。
「沢田綱吉…死にたいのでゲホッゲホッ!!」
「骸!ごめゲホッゲホッ!」
綱吉も同じく埃を吸ったらしい。

―30分後

「本当に君は余計なことをしてくれますね。そんなに勢いよく飛び乗ったなら埃が舞うことくらいわかることでしょう?」
「いつも家でああいう風にしていたからつい…」
「やってしまったことだ。もういい、さぁ早く食べましょう。」
「うん!」

元気よく綱吉は返事をすると机の上にケーキを出した。
「沢田綱吉、飲み物は何がいいですか?」
「お茶がいいな」
「すいません、ここにはココアとオレンジジュースしかありません。」
「はぁ!?うそだろ?」
「本当です。めんどくさいのでココアでいいですか?」
「まぁいいけど、チョコケーキにココアって…」
骸は立ち上がって隣の部屋へと向かった。

骸はこんなところで暮らしているのか…
暖かそうな布団もベッドもないし、炬燵もない。
ところどころ割れたガラス張りの壁。ときどき外から吹きこんでくる冷たい風。
自分の家とは大違いだ。あったかくて、家族がいて、ご飯を作ってくれるお母さんがいる。
ただでさえ一人なのに、こんなところじゃ…

骸は…どんどん冷たくなっていく。

「沢田…綱吉?」
「えっ?」

綱吉が我に返ると骸が無表情で綱吉の顔を覗き込んでいた。
「ボーっとしてどうしたんですか?とうとう頭がおかし」
「くなってないよ?」
「そうですか。はいココアです。」
「ありがと!」
綱吉は一口飲むと噴き出した。
「甘いいいいいいい!!!」
「なんてことをするんです?!」
骸は目を丸くして綱吉を見る。
「いっつもこんなのお前飲んでんの?」
「そう…ですけど。なにか?」
ズズズと骸がココアを啜ると綱吉が呻いた。
「お前の甘党さには本当に呆れるよ」
骸は綱吉を無視してココアを啜る、
綱吉は机の上のケーキを手に取って骸に食べるように促した。
「はい」
「どうも」
骸は綱吉の手からケーキを受け取り口に運んだ。
そして少し驚いた顔をした。
「意外においしいですね。沢田綱吉、お母様にお礼をよろしくお願いします。」
「へへへっ。どうも」
綱吉がほころんだ笑顔を見せた。

自分もこんな風に温かな笑顔を浮かべることができるのか…
笑い方を忘れた僕は、どうすれば笑顔を…
光に手が届くのか。
この少年に託してもいいのだろうか。
期待を持っていいのか。
僕の、光を。もう一度。

骸が我に返る。頭を軽く振り前を向き直る。
すると耳に言葉が飛び込んできた。
「骸…あのさ」
「なんですか?沢田綱吉」
「その呼び方やめない?」
「いきなりどうしたんです」
「なんだか、その呼ばれかた好きじゃないんだ」
「じゃあ…なんと呼べば」
「そうだな…。綱吉。綱吉ってよんでよ」
「つなよ…し?」
骸はいつもの表情のまま疑問げに言った。
「うーん…初めから呼び捨てはきついか…じゃあくん付けて!」
「つなよし…くん?」
「それでいいよ!」
「綱吉君」
「お前がそういう風に呼ぶと気持ち悪いなw」
骸は少し目を細めて綱吉に向く。
「し、失礼な!第一君が呼べって」
「まあいいじゃん、こっちの方がよびやすいし。それにお前となんだか近くなれた気がする。
お前のこと…冷たいところから助けられる気がするんだ。」
考えが見透かされた気がして骸はすこし動揺した。
「クフ…君にはいつも驚かされます。僕がそんなことを望む輩に見えますか?」
「うん。きっと温めてほしいって願ってる気がするんだ」
骸のさげすむような短い笑いに綱吉は真剣に向きなおって真剣な目つきで答えた。
骸はまた無表情で前を向き直り冷たい声で呻く。
「ボンゴレの超直感ですか…」
「ううん違う、骸の心がそういってきた気がしたんだ」
骸は黙って前を向いたままだ
自分の弱さがこの沢田綱吉には筒抜けなのか。
他人に理解されるわけないじゃないか。こんな痛み、苦しみがこの少年にわかるわけが…
でもなんだろうかこの感覚は、心の底から暖かくなる感覚。
今まで感じたことのない、慣れない感覚。
僕は君に…

それからしばらくして綱吉は用があるといって帰って行った。
その帰り際に骸は
「綱吉君」
「何?骸」
「君になら期待してもいい気がします」
「?」
「深い意味はありませんよ。さぁ、早く行くがいい」
「あ、うん…じゃあね!」
綱吉は笑いながら手を振って走って行った。
骸はその場で立ち尽くしている。

-そう、あの時僕に光を差し伸べてくれたんだ。闇に光を照らしこむことができたんだ。
その彼ならきっと僕を…
 

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