短編

□ばしんっ
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しおからい嘘ですね
に企画参加した作品です。


さっきまで無音だった空間に渇いたような音が鳴った。

目の前に居る金髪の彼は目をぱちくりと見開いている。どうやら自分の身に起こった出来事に思考がまだついていけてないようだ。それから数秒後。漸く己の状況に気付いたのか、右手をそっと赤くなった自分の頬へとやった。何度かまばたきを繰り返すと、青眼が不思議そうにじっとこちらを向いた。

「え、何。どうしたの?」

「…………」

「………黙っていても解らないよ?言葉に出さないと通じない時だってあるから、ね」

「………だって、フレン……昨日の内には帰るって言ってた。だから、私……」

「ごめんね」

フレンは嘘吐きだ。『明日帰る』『大丈夫、約束には間に合うから』なんて、私が何回も聞き飽きた言葉を何度も紡ぐ。そりゃあ確かに騎士団の仕事とか忙しいとは思う。遠征にもなれば尚更だ。けど、流石にこう何度も嘘をつかれたらこっちも嫌になるなんて決まっている。でも、優しいフレンは遅れたって必ず来てくれた。『ごめんね。また約束、守れなかった』って、時には泣きそうな顔になりながらも来てくれた。
フレンが嘘を吐きたくないってことぐらい解る。解っている。人一倍正義感が強いフレンだからこそ、辛いのだろう。

「ごめんね。僕はまた……君に嘘を吐いてしまったね」

「嫌い、フレンなんて大嫌いなんだから!」

「うん」

「いっつもいっつも、約束破ってるフレンなんて……大嫌い」

「……うん」

目から溢れ出てくる涙が止まらない。フレンは優しい。誰よりも優しいんだ。犬や猫が居れば餌をやるし、野良ならば飼ってくれる人を探す。そんな優しいフレンを、私は叩いてしまった。嫌いと言ってしまった。今更だが後悔してしまう。でも既に遅い。フレンは悪くない、悪くないのに。

「……ご、めん……フレンは、悪くない…のに…っ…」

「大丈夫だよ、痛くなかったから。……それに、僕が約束を守れないのも悪いしね」

「違う!フレンはっ……」

「うん。だから、ゴメンね」

彼は、フレンは、何を謝っているんだろう。嘘を吐いたこと?それとも何か他のことだろうか。もしかして私が言えなかった言葉に対してのゴメンだろうか。なんで、フレンは悪くないのに。なのにゴメンって、何。
フレンの馬鹿。いつもいつも肝心なところは言ってくれない。口を閉ざす。

「……私、フレンのそういうところ嫌い」

「……そっか」

さっきよりも一層悲しい顔をする嘘吐きなフレン。だから少しだけやり返してやる。いつものお返しだ。

「フレンなんて大嫌いだよ」

今だけは私も嘘を吐いてもいいかな。





(本当は……フレンのこと、大好きだよ)






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