短編

□溺れた魚
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君と奏でる恋の詩
に企画参加した作品です。


私は人並み程度には泳げる自信があった。組み手だとか忍術だとか得意な方だったし、泳ぐのだって大丈夫だろうと思っていた。まあ、忍だからチャクラを足に流して水面を歩くのが普通なんだけど。とにかくだ、私は泳いだ事は生まれてから一度も無かった。だけど、運動が出来るから大丈夫だろうと思っていた。あの時までは。

『川に落とした指輪を探して欲しい』

それが今回の任務内容だった。本来ならば私の班が受ける任務だったのだが、奇跡なのか不運なのか、私以外の班員が風邪でダウンしてしまった。風邪が流行っているとはいえ、まさか同じ班の人が二人同時にひくなんて誰も思ってもいなかっただろう。そして残ったのは上忍に対して私一人。探し物の任務なんて、どうせ先生は手伝ってくれないのだから探すのは下忍一人。しかも私探索とか得意じゃないし。
だから、他の班に任せることとなったのだが……。なぜ目の前に紅班が居るのだろうか。あれ、シノが居ない。
すると、不思議がっている私を見かねたのか、紅先生が解り易いように説明をしてくれた。どうやら話を聞くと、紅先生の班でも一人が風邪をひいてしまいダウンしてしまったらしい。それがシノか。つまりだ、私はその代わりらしい。本来受けるはずの任務だったし別に良いか。だけど私の班の先生は居ない。
くそっ、逃げやがったな。

とりあえず、紅先生の班員である日向ヒナタ、犬塚キバと私の三人で任務を行う事となったのだった。

「おい!もっとそっちを探せよ。こっちばっか探しても見つかんねーだろ」

「あー良い天気だなー。いやー、でも良かったな。今の季節夏でさ。冬だったら寒いからやってられないもん。ね、ヒナタ」

「そ、そうだねっ」

「てめぇー話聞けよ!」

「あ、魚だ。今日の晩御飯は煮魚にしようかな。でも刺身も捨てがたいよね。うーん、悩むな。ねーねー、ヒナタはどっちが良いと思う」

「えっと、煮魚が良いかな。でも焼き魚も美味しいよ」

「あ、焼き魚があったか!よし、なら今日の晩御飯は焼き魚にしよ……あだっ!なにすんのさ、キバ!」

ヒナタと一緒に晩御飯の事を話してたらキバに叩かれた。なんてこった。仮にも女の子なのに暴力だなんてさ。酷いよね、本当。私を叩いた張本人であるキバをじとっと睨みつける。しかし効果はいまひとつのようだ。くそっ。

「晩飯の話ばっかしてお前が全然探してねぇからだ。こっちは良いからお前はあっちを探してこい」

なんかムカついたからとりあえずエルボーを食らわしといた。思いもよらなかった出来事に、キバは対処出来ずそのまま川へダイブした。ははっ、ざまぁ。

「んじゃ、行ってきまー」

「行け、赤丸!」

「えっ、ごふぁっ!」

まさかすぎるよね。赤丸使うとか。主人に従う赤丸も赤丸だけどさ。思いもよらなかった出来事に、私はキバ同様に対処出来ずそのまま川へダイブした。それがなんとまあ。運が悪かったのか、私が居たところが深かった訳ですよ、水深が。物心ついた時から泳いだことのなかった私は、どう泳げば良いのか皆目解らず少しの間だけもがいた後沈んだ。
今思ったけどシュールだよね。赤丸に後ろから突進されてそのまま川へダイブして浮かんでこないって。あれ、でも人間だから普通浮かんでくるよね。おかしいな。やっぱカナヅチなんかな。いや、もしかして自分が思っている以上に筋肉質なのかも。え、ボディービルダー?
……なんてことを呑気に思ってたら、お腹に腕が回って来て勢いよく水面へと引っ張られた。ぐぇっ。口を開けると、酸素が大量に入ってきたのに驚いてむせた。

「ごほっげほっ、うぇー」

「だ、大丈夫っ?」

「あー、うん。多分大丈夫だと思うけど。……何、この状況」

お腹には相も変わらず腕が回ったままの状態。私の今の状況と言えば、なんとまぁー逞しい腕によって荷物を持つように抱えられている。腕一本で水面より上まで持ち上げてるって凄いよね。てか私は荷物扱いかよ、ちきしょー。嫌だなー。そういや誰だろ、これ。
顔をそーっと上げてみると、見えたのは少し焦った表情をしたキバの顔だった。あーあー、見なきゃ良かった。

「お前泳げねーのかよ」

「私が覚えてる限りでは泳いだことは一度もないね!」

「んな誇らしげに言うな!ったく、仕方ねーからお前は浅い所で探してろ」

「あいあいさー」

でもキバはなかなか下ろしてくれなかった。仕方なく手足をうごうご動かすと、キバは気付いたのか漸く下ろしてくれた。
その後、私はキバに言われた通り浅い場所で指輪を探した。

暑さにやられたのだろう。私はキバがなんだか以前より格好良く目に映って見えた。





(いよっしゃぁぁぁあ!)

(お、見つけたのか!)

(うん!晩御飯のおかずゲットした)

(お前ちょっと面貸せ)






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