短編

□有効期間切れの約束
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君に愛の言葉を
に企画参加した作品です。


私は並盛中学校に通うごくごく一般的な生徒だ。勉強は少し苦手だけど運動は得意。だから部活は運動部に入っているけど、現在ややさぼり気味。高い身長が大きな武器になる私の部活では、私は少し浮いていたのかもしれない。最初はただこのスポーツが好きで入部したのだが、時が経つにつれて私は不利になっていた。理由は簡単、私の身長が低いから。146cmという、やや低めの身長(だということを信じている)は、なんの武器にもならなかった。低いと、力もないし持久力もないだろうという偏見を持たれたこともあった。まあ、確かに力はないけど。でも持久力とスピードだけは負けない。
まぁ、そんなことはどうでも良い。とにかくだ、これらの事を踏まえた上で私は普通の中学生という事が解る。

ただ一つを除いては。

私には、小さい頃から良く遊んでいた近所の子が居た。いや、今でも近所に住んでいるけど。でも過去形にしたいと思ってる。なんたってその近所の子どもは今や並盛の秩序となっている雲雀恭弥なのだから。
今思えば、小さい頃からああだったのかも知れない。男の子が皆でボール遊びをしようと言うと、集まった子ども達を片っ端から咬み殺していたのは多々あった。その度に怪我をし泣き喚く子が居たけど、大人達はその頃から雲雀恭弥という存在を恐れていたのか、怒ることはちっともしなかった。
そんな事が続く中、小学校低学年の時に私は風邪をこじらせて入院することになった。しかも最悪なことに肺炎にかかるというオマケ付きだ。プリントやら授業中のノートはクラスメートから貰っていたが、治らない事には意味がない。私は来る日も来る日もベッドの上という狭い空間に居た。でも、皆が言っている程ご飯は不味くもないし調子が良い時はテレビを見ていたので割と充実した入院生活だった。
そんなある日の事だ。割と身体の調子が良かった晴れの日の夕方、奴は来た。背中には黒いランドセルを背負い、手には近所のケーキ屋さんの名前が書かれた箱。当時、私と彼は違うクラスだった。なのにどうして来たのだろうと、その時の私は疑問と不思議な気持ちでいっぱいだった。ついでに言うと両親は仕事や家事やらで居なく、その場に居たのは私と彼だけだった。そう、つまりは二人きりという訳だった。

「恭弥くんどうして来たの?同じクラスじゃないから宿題とか違うのに」

「……なに、お見舞いに来ちゃ駄目なの」

「別にそんなことないけどさ。でも、恭弥くんがお見舞いって……なんか似合わないね!」

当時の私は、何も悪気は無かった。これっぽっちも、微塵にもだ。今これを言えば半殺しでは済まなかったと誰もが思うだろう。子どもだったからなのか、少し頭が弱かったのか、はたまた素直だったのかは解らないが、この時の私は勇気があったと思う。そしてこの時、咬み殺されなかったのは奇跡に近いことではないだろうか。もし、今これを言えと言われたら答えは一つしかない。NOだ。

「ねぇ、いつ治るの」

「んー、解んないけどもう少ししたら退院ってお母さんと先生が言ってた」

「ふーん。……あ、そうだ。これお見舞い。君の担任に聞いたらもう食べても大丈夫って言ってたから」

「ありがとうー!ねーねー、開けて良い?あ、プリンだ。やったー。私プリン大好きなんだ。あ、そうだ。恭弥くんも食べる?」

答えも聞かずに箱を開けると、そこには私の大好きなプリンが四つも入っていた。流石に四つも食べれないかなーと考えた私は、彼と半分こしようと思ったのだった。だけど彼はきっぱりと断った。

「なんでお見舞いに持ってきた物を持ってきた人が食べるの。普通に考えておかしいんじゃない」

「えー変かな?あ、じゃあさ、じゃあさ。恭弥くんが入院した時に今度は私がプリンを持ってお見舞いに行くね。あーでも忘れるかも……」

「じゃあ入院から退院してからの一週間の間は有効にしてあげるから思い出す事だね」

「うーん、解った!約束だよ指切りげんまん嘘ついたら針千本……針千本、か……」

針千本って飲んだら痛いよね。というよりあれって飲めるのかな。下手したら喉に刺さって……。

「針千本は……ちょっと無理かな。痛いし」

「……じゃあこうしよう。針千本じゃなくて………」


そんな約束をして、数年が経った頃。私はそんなことを完全に忘れていた。それに、小学生の時はちょくちょく遊んでいた関係も、今では殆ど皆無になっていた。お互い成長もしたし、率直な理由としては彼が並盛の頂点になったからだ。つまり、そう易々と話し掛けれなくなったとも言う。
そして、恐ろしい事に彼はいつの間にか入院をしていて更には退院後の一週間を過ぎようとしていたのだ。
普通の生徒なら先生から連絡が入るだろうが相手はあの雲雀恭弥。そんな連絡なんか入る訳が無かった。

「どうして呼び出されたか解ってる?」

「いや、全く」

「暫くしない内に随分と図太い神経になったんだね。しかもあの時の約束を忘れているし」

「やく、そく?約束……えっとー……」

本当、どうしてこうなったんだろう。放送で呼び出しを食らったのは数十分前。応接室に着いたのは数分前。遠い日に交わした約束はおそらく数年前。こんなの解る訳ない。でも目の前に居るのは雲雀恭弥。下手な答えを言えば咬み殺されるのは確実だ。とりあえずヒントだけでも貰おう。そうじゃないといい加減埒が開かない。

「頭が悪い君にでも解るヒントをあげるよ。一つ目は入院、二つ目はプリン」

……思い出した。確か小学生の頃に私が入院した時、恭弥くんがプリンをお見舞いに持ってきたんだ。その時に交わした約束のことか!え、ちょっと待って。そんな随分前の約束なんて通用するのかな。いやでも相手は雲雀恭弥。常識なんてない。

「はい、質問!恭弥くんが退院したのはいつですか」

「さあ、いつだろうね」

「え」

今でもそうだが彼は心が拗けていると思う。いや、ひねくれているのかな。
確かこの約束は期限が付いていた。恭弥くんの事だ。きっと退院してからの秒単位まで把握しているに違いない。ならばその間に私は買わなければならない。プリンを。約束を破ったらどうなるかは思い出していないけど。ただプリンを買わないけないことは思い出した。

「……3、2、1。はい残念。タイムオーバー」

「そんなまさか」

「ヒントあげたのにね」

「いや、ヒントをくれた時点でもうアウトだったよ!恭弥くん、あんまり聞きたくはないんだけどさ……約束破ったらなんだっけ」

「ワオ、君はそれも忘れていたんだね。どうしようか、君から言い出した約束なのに自分が守っていないって。ねぇ、覚えてるかい。嘘ついたら………」

その後、私は恭弥くんに向かってとりあえず謝りまくった。恭弥くんの顔が怖かったとか決してそんな理由なんかじゃない。約束を忘れていてごめんなさいの意味を込めて謝ったのだ。でも、約束を破ったらどうなるかの内容は知らない。だって恭弥くんが言う前に怖くなって謝ったから。
数秒後、私は恭弥くんからチョップを食らうこととなった。トンファーじゃなかったことが唯一の救いだったが、手加減されたチョップでもなかなかのダメージを受けた。い、痛い。


(指切りげんまん嘘ついたら相手に○○する。指切った)





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