短編

□感謝の心
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あたしには双子の幼なじみがいる。兄の悠太と弟の祐希だ。双子として産まれたから、普通は兄や弟を意識しないと思うけどここの双子は違うんだよね。悠太はいつもお兄ちゃんしてる。祐希はそれに甘えてるからたまには悠太に楽させたらいいのに。

「という訳で、いつもお世話になっている悠太に何かお礼をしよう」

「えー……」

「えーじゃない」

「えーじゃないじゃない」

「えーじゃないじゃないじゃ……あーもう、鬱陶しいなぁ!」

一向に埒があかない状況にムカついたあたしは、勢いよく立ち上がった。祐希はまさかあたしが立ち上がるとは思っていなかったので凄く驚いてた。いつも無表情なのに珍しいな。てか立ったままもなんかアレだからとりあえず座ることにした。よいしょっと。

「なに、いきなりどうしたの」

「ほら、あたし等いつも悠太に迷惑かけてるじゃん。千鶴もだけど。だからなんかお礼というか感謝をしたりとか、さ」

「へー……で、本当の理由は」

「昨日悠太から借りた本を誤って汚しちゃったからです」

「あーあ。確か悠太あの本大事にしてたと思うけど」

まじでか。ま、感謝の心は大事だよ。でも一番の理由はあれだよあれ。昨日絵描いてたらドバーってね、やっちゃったんだよね。絵の具で色がついちゃった水が悠太から借りた本にビチャってね。やっちゃったよ本当に。ごめんね、悠太。急いで乾かしたんだけどやっぱり駄目だったんだ。ほら、本って水に濡れると膨張するじゃん。二倍に膨れ上がっちゃった。

「どうしよう」

「どうしようって俺に言われても困るんだけど」

そりゃあ解ってるけどさ、双子だからなんかこう、意志疎通みたいな?一心同体とかそんなんで何考えてるとか解らないのかなとか思ったんだよ。

「悠太許してくれるかな。あーでもさでもさ、やっぱり怒るよね。大切にしてた本がまさか二倍に膨れあがってしかもカラフルになって帰ってきたら絶対に怒るよ。あたしだったら怒るかふさぎ込むし。あー本当にどうしよう」

「素直に謝ればいいじゃん。悠太もそんなに怒らないと思うし」

「本当に!?」

「知らないけど。てか新しいの買えばいいじゃん」

「無理」

それは絶対に駄目だ。無理、できない。もしかして祐希知らないのかな。悠太から借りたあの本は古本屋に行ってもなかなか手に入らないんだよ。それを……それをあたしは………っ。

「ま、悩んでる暇あれば謝った方が断然良いと思うけど」

「喧嘩してもいっつも悠太から謝ってくるの待つ人には言われたくない台詞だね、それ」

「あー……」

でもまぁ、祐希の言う通りだ。いつまで悩んでても意味がない。

「仕方ない……潔く謝ってくるわ。でもその前に祐希で練習する」

「え、」

「ほら、双子だし」

「うわー、なんて横暴な」

「悠太……ごめんなさい。あたし悠太から借りた本汚しちゃった」

「しかも無視ですか、許しません」

「ありがとう!やっぱり悠太は優しいね」

よし、練習完了。悠太に謝りに行こう。後ろで祐希が何か言ってるけど気にしない。悠太許してくれるかな……。





(悠太……ごめんなさい。あたし悠太から借りた本汚しちゃった)

(許しません)

(ちょ、祐希邪魔)

(あのー……さっきの会話全部聞こえてましたけど)

((え、))






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