わんこな日々

□会った
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昨日騎士団長に偶然出会ったのに、また会ってしまった。

さっきまで準備運動がてら犬達(勿論子犬もいる)と一緒に走っていた。私や成犬は慣れていると言ったら変だが……ああ、そうだ鍛えているので大丈夫だが流石に子犬達は疲れたのだろう。さっきから走るスピードが落ちている上に息が上がっている。少し早いけど休憩にしようか。ストップと言った後、軽くウォーキングをしながら私や犬達が座って休める場所まで移動した。すると、子犬達はすぐさま座り込んだ。朝、食堂のおばちゃんから貰っておいた水を取り出し、犬達に飲ませてやる。そうしていた時だった。

「あ、こんにちは」

「………どうも」

必然的だ。二度目ということは三度目もある…のかな。ほら、二度あることは三度あるって言うし。犬(わんこ)達は、フレン騎士団長を見るやいなや尻尾を振りながら近付いたのも居るし、普段通りな犬もいる。ほとんどは普段通りな犬だ。

「……バック」

「わんっ」

『下がれ』と言うと、フレン騎士団長の周りにいた犬は私の近くまで下がってきた。水を飲ませ終わると、フレン騎士団長は、良く躾ているんだね。と、また笑顔で話す。
あーあ、なんでこんなに笑顔なんだか不思議でたまらない。まあ、私も犬達といるときは笑っているだろうから人のことは言えないのだろうが。

「騎士団長がこんなところに居て良いんですか」

やや棒読み気味で、そして皮肉めいた感じで言ってやる。すると、フレン騎士団長は休憩のために少しだけ散歩しているんだよ、と言った。なんだ、そんな簡単に休憩していいのか騎士団長さん。仮にも騎士団のトップなのだからそれは駄目だと思うんだけど。

「犬……好きなんですか」

「好きだよ。あ、僕の友人が飼っている……というより暮らしている?のかな。子犬の時から知ってるんだ」

「へー……」

私から話したけど、至極どうでもいい話だった。他の人ならば、『名前なんて言うんですか』『今何歳なんですか』『見てみたいです』など言うのだろう。普通ならば。だが、私は普通ではない。多分。でもまあせっかくだから聞いてみようかと思う。

「その犬の名前、なんて言うんですか」

「ラピードだよ。元々は騎士団に居たんだけどユーリ……友人が出るときに一緒に行ったんだ」

「ラピー…ド………ラピード?確か、父親の名前がランバートだったような」

「え、ランバートを知っているのかい?」

「そりゃあ、だって」

だって、ランバートは私が育てたし騎士団に居た時から有名だった。普通の犬は何度も攻撃をして倒す敵も、彼は一度で倒してしまっていた。しかし、彼はシゾンタニアで殉職してしまったと聞いた。その後、軍用犬の登録をする前だったランバートの息子(犬)であるラピードはある人に預けられたと聞いた。彼の息子(犬)だということで、私も期待していた。たった数ヶ月だけだったが世話をしたこともあった。そのラピードが、騎士団長の友人のとこに居るだなんて世間は狭いのだなと感じてしまう。その事を、大まかにフレン騎士団長に話すと、目を大きく見開いた後、楽しそうに笑った。一体何だというのだろうか。

「今度連れてきてあげるよ。あ、でも最近はずっと仕事だって言ってたな」

「別に良いですよ。それより、早く戻らないとソディアさんが探しているんじゃないですか」

「あ、そうか。もうこんな時間なのか。ごめんね、また時間があるときにゆっくり話そう」

「は、ちょっと意味が分からないんですけど」

「じゃあね」

あの騎士団長、言いたいことだけ言って行ってしまった。というか“ゆっくり話そう”と言った意味が分からない。立場上、彼は騎士団長、そして私は軍用犬を育てているただの騎士団。小隊長でもなければ、補佐でもない。第一、こんな仕事をしているのは私ぐらいしかいないのだから。あ、でも私しかいないということは私が小隊長になるのだろうか。
結局は、どうなろうと立場は変わらないのだ。彼と私、年齢はそんなに変わらないだろうが責任の重さや信頼性など、色んなことが違ってくるのだ。

「……もう一回走るよ。チビ達は休憩」

何かが、嫌に思って私は思い切り走った。
彼と私の“共通点”を探そうとしたのに、一つも“同じ”がなかったことが悔しかったのだ。





(あーあ、なんだか私らしくないな)





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