わんこな日々

□仕事
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いつもなら…普段ならこのまま犬小屋へ向かってミルクを犬達にあげる予定なのに。なのに、なんでこうなった。

「大丈夫?手伝うおうか」

目の前には何故か忙しい筈の騎士団長、フレン・シーフォが一名。何故ここに居るのだろうか、不思議でたまらない。
……まあいい。だが、私が重い物を持って歩いていて、誰かがいても私は誰の手も借りなかった。そう、今まで一度もないのだ。だってこれは私の仕事だからだ。
今私の目の前には騎士団長。そして私の両隣にはライルとライカに子犬二匹。目の前には手を差し出す騎士団長。ライルとライカの背中には重たいミルクの入った瓶。口にはさっきまで遊んでいた子犬を銜えている。私の両手にはミルクと水が入った大きなタンクのような容器がある。その上には、私のご飯が入っているバスケットが一つ。そして目の前には騎士団長……。はい、有り得ない。

「あれ?聞こえなかったかな」

きょとんと首を傾げる騎士団長。いや、聞こえていました。というか聞こえていなくてもその手を見たら分かります。こんな状況なんだから。私は、なんだかその場から立ち去りたくなって棒読みで返事を返した。

「いえ、聞こえていました。すみません、お気持ちは嬉しいのですが結構です。これは私の仕事なので。行くよ、ライル、ライカ」

後ろから騎士団長が何か言っているが気にしない。私は断じて知らない。知らないったら知らない。足早に元来た道を歩こうとした。その時だった。私の腕から荷物が消えた。いや、正確には奪われた、と言えばいいのだろうか。とにかく、私の荷物はすぐ隣にいた騎士団長の手の中にあった。

「……すみません、返して下さいませんか」

「でも重いから危ないよ」

「それぐらい大丈夫です。騎士団に所属している以上筋トレや訓練は毎日欠かさずに行っていますから。それに、これぐらい運ぶのはいつものことですから」

こういうのはハッキリと言った方が良い。ハッキリ言えば相手は少しながら戸惑うだろうから。その間に、荷物を返してもらい(奪い返す)さっさとその場を去ればいいのだ。

「それじゃあ……っなんですか、騎士団長」

「ふふっ……確かに、君から言えばこれは仕事、自分ですべきことだと思う。でもね、女性が重い荷物を持っていればそれを男が持つのが常識だと思うんだ」

「ああ、それならここに妻子持ちのナイスガイな相棒がいるので大丈夫ですよ」

「わんっ!」

いつの間にか離したのか、ライルの口には子犬、ザクロが居なくなっていた。と、思ったら私の足元にいた。なんで。

「……………あ。それじゃあ、お願いできますか」


▽▽


私の腕にはミルクと水が入ったタンク。

「ただいまー」

「わんっ!」




『……それじゃあ、お願いできますか』

『うん、分かったよ』

『なら、ザクロがどこかへ行かないように抱っこしていて下さい』

『…………え、』

戸惑いによる一瞬の隙をねらい、すぐさまフレン騎士団長の腕から荷物をとった。それを一旦床に置き、ザクロを抱え上げた。

『荷物を運ぶのは私の仕事です。だけど、両手が塞がっているのでザクロを逃げないように抱えておいて下さい。この子は兄弟の中でも一番の腕白坊主なので迷子になりやすいんです(まあ、逃げないと思いますけど)』

『………ふふっ、なら仕方ないね。本当は僕が荷物を持とうと思ったのに。解ったよ、この子が逃げないようにしっかり抱えている』

『…ありがとうございます』




さて、荷物も持って来た。もう少ししたら訓練をしなければならない。
それをフレン騎士団長に言えば、少し話をした後に“またね”と言って立ち去って行った。





(え、また会うんですか?)





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